早稲田文学増刊π(パイ)
単行本が出るまで安心出来ないので雑誌を購入。
異様な文体模写がずっと続くのかと思いきや……ギャ〜! 面白すぎる!
「君は本当の○○を知らない!」というキャッチフレーズはこの作品のためにある。
文豪のクローンが作品を書くことによって、未知のエネルギー「青脂」を生成させるのが前回のあらすじ。
冒頭は前回同様、中国語と造語が連発するサイバーパンク風味なんだけど、それからあれよあれよと予想外の展開。
延々と続く秘密基地、水上人文字、下水オペラ、巨根教団、並行世界……何を言っているのかわからないと思うけど、それだけで話が一つできるようなガジェットが次々と出てきては、すぐに舞台も物語も移ってしまう。この惜しげもない使い捨て感に意味があるように思えてならない。
特に水上人文字は最高!
とにかく、続きが楽しみ。
この2回目だけでもオススメ。
やすらい花
著者の随筆集「人生の色気」に深く感動し、最新短編集であるこの本を手に取りました。人生の色気
人生のすべてを受容しつつ、人生に妥協しない作者の姿勢に深く感銘。
現実はあまりにもこの小説に似ている。
どの短編も素晴らしい境地を示していますが、中でも「生垣の女たち」はすごかった。
人生の色気
思い出したのは吉本隆明さんが語り下ろしでしか本を出せなくなってからの『僕なら言うぞ!』『13歳は二度あるか』『よせやぃ。』などの本。それまでの読者から大きくかけ離れた層に、あえてイメージを壊して、けっこう下世話に語りかけている点が似ているかな、と。
古井さんが手取りの月給が10万円に届いていない時代の大学教師を辞めて書いた第一作は240枚の『杳子』ですが、当時の文芸雑誌の原稿料は600円から1000円なので、当分の計算は立った、なんていうあたりから語り始めます。当時、「自己解体」をスローガンに学園紛争に熱中している学生たちを、古井さんは《目に見えない何かに対するツケのようなものを支払っている風に見えました》(p.23)と書いていますが、それが可能だったのは経済成長を当たり前だと考えていたからだ、と。そして《経済は人の社会を外部から根本的に変えてしまい、どう変わったのかも気づきにくい》とも。
そんな話から、《不祝儀の場の年寄りの振舞いに、男の色気は出るもんなんです》《喪服を着て、お焼香をして、挨拶して、お清めをして帰ってくるだけのことが、いまの男は、なかなかサマにならない》(p.44)なんあたりに飛んで、さらに男に色気がないから、いまの女性の化粧は他人を拒絶するような印象を受ける、というところまでいきます。
《人間には、破壊の欲望があるもんなんです。すべてが壊された時、人は解放される。人はそれぞれ、過去にろくなことを抱え込んでいないでしょう》(p.61)なんてあたりもいいな。