てなもんや商社 [VHS]
主人公の、あんまりヤル気のなかった女の子が就職したのは萬福中国貿易というちいさな貿易会社。実話に基づく映画なのだけれど、どのエピソードも面白くて、中国のおおらかさがつたわってきます。登場人物もみな個性的でステキ。小林聡美さんが好演していますが、個人的には意外な役の渡辺謙さんが大ヒットです。それと、それぞれの人物が何かしら素敵なセリフを残してくれて、見終わったあとになんだか爽やかでちょっと元気とやる気がもらえたような気がします。どうしてDVDにしてくれないんでしょうか。
SP 野望篇 Blu-ray特別版
世間ではそれだけでたたかれがちであるが、テレビドラマの映画版がいけないとは限らない。問題は、多くのテレビドラマ映画がTVシリーズの時点で語りつくしてしまっていることを掘り下げることすらなく適当に話の規模を大きくしてもう一度やっているだけ、であることが殆どということだろう。
そういう意味では、SPの映画版に対する期待はあった。SPという題材を使って邦画で「アクション」をやろうという心意気。そのために役者が充分な準備をするという熱意。異例ともいえるテレビシリーズの進行。賛否はあるだろうが、少なくとも何か観たこともないものを見せてやろうという気合のようなものは感じる。そして役者たちはその期待にこたえているといえる。
ただ、残念なのは演出面。良いという意見もあるだろうが、例えばアクションシーンで優雅なクラシックを流す、というのはいくらなんでも古臭すぎないだろうか。日本では作れないと思われた王道のアクション映画をやる、というのがポイントのはずなのに、ここでそういう「ずらし」の演出を使ってしまうことは効果が半減してしまう。はっきり言って作り手は世界最高レベルのアクション映画の作り手ではないのだから、まずはオーソドックスに撮ることに徹するべきではなかったのか。「マッハ!」が成功したのは、金も技術もなくても、正攻法で肉体アクションを見せることに全力を傾けたからだろう。
この作品では、カメラをぐらぐら揺らすという流行りの(しかし失敗しがちな)手法で撮影し、案の定アクションが見えにくいという自体を起こしている。せっかく身体を張ったアクションをやっているのに妙なところでカットを割ってしまう為に却って迫力が損なわれている場面が多いし、そもそも「車の上を走って追いかける」という場面をやっているのに横の車道はガラ空きなど、詰めの甘い箇所が目立つ。テロを起こそうとした(らしい)容疑者を捕獲するためとはいえトラックの横転事故を起こすなど、いくら派手な見せ場を作る為とはいえ「そこまでやったら駄目だろ」と観客に思わせてしまう無理な演出も多い。
要するに作品世界内における「リアリティ」の基準があいまいなために、違和感が生まれやすいのである。
香川照之演じる悪役も何度となく観た(はっきり言って観飽きた)悪役像であり演技だし、堤真一演じる緒方も、この作品の中ではもったいぶっているだけでイマイチ存在感を発揮できていない。あれもこれもと欲張ったせいで、結局その多くでミスをおかしている。テロリストグループの刺客にしても、わざわざ視界が狭くなるお面をかぶってくる意味がどれだけあるというのか。ああいうお面は「殺さずに金を奪う」などの場合に効果が発揮されるのであって、プロの集団が「殺すか逮捕されるか」という現場でやる意味は殆どないはず。「なんとなく」「雰囲気で」「格好いいっぽい」から選ばれた演出が多すぎる。
CGを使ったカットと、後のカットで繋がりが悪い等、不慣れとはいえもっと考えるべきところはあったはず。悪い意味でテレビドラマ的な顔のアップ演出や世界観の狭さを感じさせるセット、ロケ地などせっかく2年間も準備期間があったのだからもっとしっかりしてほしいところ。
酷評に近いが、役者の頑張りやハマり具合はなかなかのものだし、終盤の延々と続く戦いは突っ込みどころも多いながらなかなか楽しめる。邦画ではあまりなかった市街地での戦闘、というのをやってくれただけでもある程度観ごたえはある。少なくとも「作るべきじゃなかった」続編映画や、「ファンサービス」程度のテレビドラマ映画とは違う、つくる意義はある映画だったと思う。だからこそ惜しいのだが。
慢性拳闘症
もともと著者の文章のファンでもありますが、ご本人の愛してやまないボクシング映画の話となれば、これはもう面白くないわけがない。
いつもながらの緻密な描写、センテンスの長い文にもかかわらず独特の疾走感、言語感覚のもたらす表現力ゆえのライブ感。
とにかくこちらまで熱病に感染したかのごとく、夢中になって読んでしまいました。
ボクシングにはそれほど興味があったわけではなく、ほとんど無知な私ですが、それもいつものごとく、独特の描写であっという間に引き込まれてしまいます。
ただ「頭のいい人が書く文章」でもなく、時にマゾヒステックに自身をこき下ろし、情熱と試練にひたすら身を投じる姿は、まるで異端の修行僧か殉教者のよう。でもどこか破戒僧のようでもあり。そこが面白さでしょう。
「哲学」や「思想」をやすやすと引き出すわけでもなく、そうそう簡単に答えを与えるわけではありません。
むしろ万人の持つ「情熱」や「挺身」、「トラウマ」に立ち返らせているようで、考えさせられました。
筆者の演技には、どんな悪役であっても、いつも何かそういったものを考えさせられてしまうのですが、書くものもやはりさもありなん。
映画という「大人のお遊びごっこ」の中にいて、捨て身であるように見えつつも、どこか冷静に物事を詳細に観察し、理論的に語る。
おなかいっぱいです。
でもまだまだ読みたくなる、おかわりしたくなる一冊。