ベスト・オブ・スティーヴン・ビショップ
まず、ジャケを見て驚かないで欲しい。スタンドカラーのシャツにストライプのズボン、水玉模様の靴下。おまけにギターは水色でピックガードに音符のマークをあしらったもの。このジャケを見れば、コミックソングでも歌う人なのかと思ってしまう。(デビュー作『ケアレス』のジャケはカッコいい写真なのだが・・・)しかし、出てくるサウンドはロマンティックなこと。「MADGE」や「LOOKING FOR THE RIGHT ONE」のような感傷的な曲と「ON AND ON」のような爽やかで軽快な曲の2面性がこの人の持ち味。
AORという括りに入れられてしまう彼だが、私のイメージするAORはデビット・フォスター系の、もう少しフュージョン寄りのサウンドであるので、私の中のではAORではない。良質なポップスである。
収録曲では映画ホワイトナイツの主題歌としてフィルコリンズの歌でヒットした「SEPARATE LIVES」を本人がカバーしているのが良かった。アコースティックギター1本で歌っている。よく聴くとギターのコードのフォームも当たり前のものではなく、ヴォイシングに気を使っているのが分かる。細かいことはさて置いて、私の場合はジャズやロック等の自己主張の強い音楽ばかり聴いていると、聴きたくなるのがスティーヴン・ビショップの音楽。さらりとして良質な味わいである。
キング・ラット (BOOK PLUS)
中世のハメルンの笛吹き男の話が、ドラムンベースのビートにのって蘇る。荒唐無稽な筋書きは、それ自体で面白いが、音楽的な描写の部分はいまひとつうまくイメージできずに退屈だった。それ以外は、長編ではあるがテンポもよく、飽きさせない物語構成で、面白かったと言えるだろう。
それにしても、子どもの頃、ハメルンの笛吹き男は言い人だとばかり思っていたのに、大人のファンタジーの世界ではそうとばかりも言えないようだ。もっとも、ネズミを退治したお金を村人が払わなかったので、怒った笛吹き男は、子ども達をみんなさらっていってしまったのだから、いわば血も涙もない誘拐犯でもあるわけだ。そのあたりの残虐さがこの『キング・ラット』には描かれている。
チャイナ・ブルー
NHK『ダーウィンが来た』エンディングテーマ曲を目当てにこのCDを手に取った。が、その曲は単体で聴いてみると、「これから必死の生存競争に立ち向かう雛たち」という番組の定番の終わりかたとは裏腹に、夜のジャズ・バーのような場所がイメージとして湧いてくる。これは他の曲にしても同様。
一部にはアカペラの曲や中国テイストを強く押し出した曲もあるが、全体的には派手に盛り上がることもなく、「オトナの世界で、お酒の供に」という印象を強く受けた一枚である。