銀の匙 (岩波文庫)
非常に好き嫌いの分かれる作品だと思う。文章の巧みさ、美しい幼年時代の思い出、エピソードや小道具の使い方も洗練されている。全体的な完成度という点ではやや不満が残るが、ものすごく質の高い小説であることは確か。
しかし、私には肌に合わなかった。自己憐憫や屈折した自尊心に由来するべたべたした感じが強く、読み進めるのが苦痛だったほど。日本の私小説が苦手な人は避けた方が無難だろう。
角川文庫版には、平岡敦夫と郷原宏の解説が収められ、注も充実している。
日本合唱曲全集 多田武彦作品集
25年前、大学の合唱サークルでタダタケに出会い、男性合唱にはまりました。当時愛聴したLPが懐かしく、今回このCDを求めましたが、色んな年代のグリークラブが演奏しており、懐かしくかつ新鮮に楽しんで聞くことができました。
各グリーの出来映えも満足のできる演奏で、格調高く仕上がっており、世代、大学の差を越えて楽しめる一枚だと思います。
日本語の母音のもつ曖昧さに、西洋との違いを感じる部分がありますが、この課題に、3人の指揮者と3グリー5世代の演奏は、見事に統一された個性を聴かせてくれています。
銀の匙 (角川文庫)
私がこの作品と出会ったのは高校三年生のときでした。思うように進まない受験勉強に毎日苦しんでいました。
そんな時、ある試験の予想問題としてこの作品の一部分を読みました。美しい擬態語、言葉づかい、風景描写がささくれだっていた私の心に染みこむようでした。
晴れて大学生になれた今、全文をあらためて読みました。ひたひたとした感動が得られました。おそらく、この本は人間をとぎすませ、かつ深めてくれると思います。
日本合唱曲全集「雨」多田武彦作品集
多田武彦氏が20代から30代にかけて書かれた男声合唱の名組曲を集めています。録音年代にばらつきはありますが、日本を代表する名指揮者と実力あるグリークラブの演奏ですので悪いはずはありません。
『雨』は吉村信良指揮、京都産業大学グリークラブの演奏です。全国の合唱コンクールで金賞を何年も続けて受賞していた頃の演奏ですのでとても安定感があります。終曲「雨」を歌った尾形光雄氏のソロは感涙ものです。
『柳河風俗詩』は昨年亡くなられた北村協一指揮、関西学院大学グリークラブの演奏です。多田氏が24歳の時に作曲した『柳河風俗詩』は、氏の作風とエッセンスがその4曲全てに表れております。冒頭の印象的な男声ユニゾンの呼びかけからして個性的ですね。全編を通してノスタルジックで、悲しげで、日本情緒もたっぷりと含まれています。
北原白秋が古里「柳河」に対して、郷愁たっぷりに描いた一連の詩がとても親しみやすく、白秋特有の不思議な世界がそこに存在しています。至極簡単なのに、味わい深い仕上がりになっているところが愛唱される所以でしょう。
同じく関西学院大学グリークラブの演奏による『中勘助の詩から』も愛すべき作品です。哀愁のある「ふり売り」と終曲「追羽根」の江戸情緒は聞きどころです。
畑中良輔指揮、慶應義塾ワグネルソサィエティー男声合唱団による『雪明りの路』『草野心平の詩から』はお手本のような完成度です。抒情的な「月夜を歩く」や「さくら散る」の鮮やかさは後世に残るものです。素晴らしい演奏だと思っています。
奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち
初代『銀の匙』組(昭和31年・1956)は、15名が東大に合格(全国22位)、二代目『銀の匙』組(昭和37年・1962)は、“39名と急伸した灘校は、関西では超一流進学校として、一気に名を馳せるようになった”。。。
エチ先生の教育方針、方法については賛同する点が多いのだが、本の切り口はどうもうさんくさい。1960年に38人の東大合格者を出している高校が、1962年に39名の合格者を出した場合、急伸という表現はおかしい。誤読を誘導するような統計引用は、いかがなものか。調べなかったのか、意識的なのか。。エチ先生に失礼ではないか。。。褒めるために全力を尽くしている本だ。ちょっとげんなりしながらも、エチ先生の授業については知りたいので最後まで読める!ある意味すごい。