大いなる眠り (創元推理文庫 131-1)
いわゆるハードボイルドを読んだことの無かった僕は、最初、正直退屈だと感じた。探偵が登場するから推理小説なのだろうけれど、事件の形がはっきりしない。死体が登場するけど、殺人現場の細かな検証が行われるわけでもなく、暗号が登場するけど、それが論理的に解読されるわけではない。
しかし、途中からなぜかはまり込んで、一気に読めてしまった。その原因は、マーロウをはじめとする登場人物の魅力、軽妙な会話、巧妙な情景描写にある。それらが、なんともいいようのない心地よさを生み出しているのだ。そして、読後に感じるむなしさも絶妙である。
僕がこの作品に感じた魅力が、ハードボイルド一般の魅力なのか、チャンドラー特有のものなのか、それとも、この作品特有のものなのか、僕には分からない。だが、この作品が(本格推理の前提を忘れて読めば)傑作であることは間違いないと思う。
おそらくは夢を (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マーロウ・シリーズの第一作「大いなる眠り」の続編.ロバート・パーカーが「プードル・スプリングス物語」に続いてチャンドラー作品に取り組んだ作品.「大いなる眠り」の主要プロットはそのままにしつつ,話の流れも継ぎ目なくスムースで,各所に楽しめるヒネリが散りばめられている.例えばスターンウッド家の執事ノリスの役どころなどは面白い.マーロウとギャングのエディ・マースの関係や,捜査課長オウルズとの関係などは,スペンサーシリーズにも似ている部分があり,スペンサーシリーズをはじめパーカーの作品はマーロウシリーズに大きな影響を受けていることがよく分かる.逆にそれが,パーカー版マーロウが本家マーロウと食い違いなく楽しめる理由かもしれない.
R.シュトラウス:作品集
CD会社としては「初心者向けの廉価2枚組」という感覚で発売したと思われるが、どうしてどうして、このディスク、けっこういろんな演奏をききこんだ方にとってももとめるだけの価値を充分に持っている。
絶頂期のカラヤンによる「ツァラトゥストラ」「英雄の生涯」がきけることだけでも有り難いのだが、そこに同じベルリン・フィルを振っても音楽的に時代感覚のまったく違うカール・ベームの「ティル」と「ドン・ファン」が収められている。カラヤン登場までのR.シュトラウスの「古き良き正統」はケンペやベームにあったわけで、そうしたことを議論するうえでも見逃せない。
そして決定的なのが「ホルン協奏曲第2番」だ。この曲は大戦後に80歳をこえた老シュトラウスの手になるもので、当時のシュトラウスは「モーツァルトに還る」という発言をしていた。そのため「まあホルン協奏曲第1番と同じでいいだろう」(こちらはシュトラウスが17歳のときの作品だったと記憶する)という解釈になってしまいがちなのだが、カラヤンはそうは考えなかったようだし、わたしもカラヤンの解釈に賛成だ。曲はたしかに明朗で、のびやかにホルンが響くのだけれど、そこには「かなしさ」がある。ハウプトマンのホルンが「まるではるかな山あいからきこえてくるように」鳴り、ベルリン・フィルが曰く言い難いツケをしているのをきくと「うーん、さすがカラヤンだ」と思う。
カラヤンはR.シュトラウスのホルン協奏曲第1番は録音していないと思う。なにを録音しないかもひとつの発言である。けれどここでのききては「もし録音してくれていれば」と、どうしても思う。そういう気持ちを(わたしと同様に)おもちになった方には1971年にペータ・ダムがホルンを吹き、レーグナーがドレスデン国立管弦楽団を振ったディスクをお薦めしておく。「Strauss,Damm」で検索すれば見つかります。
大いなる眠り [VHS]
ハンフリーボガードの『三つ数えろ』の原題をみてビックリ。ビッグスリープではないか。ストーリーも同じタッチも似ている。ただ気になるのは、このロバートミッチャム版の、富豪の二人の娘のキャラがいまいち探偵物としてふさわしくなく、ハンフリーボガード版のようにもっと秘密めいたタッチが見ていて安心感があると思うのは私だけでしょうか
三つ数えろ 特別版 [DVD]
映画というのは、実在しようがしまいが、ロケだろうが、セットだろうが、その作品における「都市」なり「街」なり必ず「場」が設定されるわけだけど、この映画に登場する「街」はいったい何と表現すればいいんだろう。
その犯罪の匂いといい、出てくる男女の如何わしさといい。登場する女性が、たとえチョイ役の女性にしても暴力的なほどにエロチックな雰囲気だ。
しかもそれを、ごくサラリとスマートに描いてしまうのだから憎い。
こんな街を一日歩き廻れば、角々でどんな男女に出くわすか分かったもんじゃない。
これほど危険な香りがするブラックホールの様な「街」を、映画の中に創り上げたホークスは本当に凄い。まさにハードボイルドな「空間」が現出している。
ボガートの活躍に、この異様な街と人々にゾクゾクさせられる!