薔薇の名前 特別版 [DVD]
ウンベルト・エーコの原作は2冊に及ぶ大著であったが、貪るように読んだのを思い出す。かなり話題になった本ではあった。
そして、ジャン・ジャック=アノーが、時代考証なども非常に入念に行って映画化したのが、この作品である。ショーン・コネリーもはまり役なら、新人だったクリスチャン・スレーターの初々しい演技も見物である。
インターネットなどなかった時代故、中世カトリック修道院での生活ぶり、衣装や装飾、ライブラリーでの写本製作など、当時北方ルネッサンスをかじっていた小生にとって、(イタリアとネーデルランドでは南北の反対側だが)たいへんに興味深いものがあり、イメージの具体化に大きく役立ったモノだった。
今まで、国内ではなかなか入手できず、私はusa盤を購入した。もちろん日本語は対応していない。今回こういう低価格で発売され、複雑な心境ではある。古い映画なので画像はそこそこである。いっそのこと、DVDを飛ばしてブルーレイ化してもよかったのではないか?
ともあれ、映画好きな若い人にも是非お薦めしたい作品である。
バウドリーノ(上)
中世ヨーロッパを舞台に、「バルバロッサ(赤髭)」こと神聖ローマ皇帝フリードリヒに仕えたバウドリーノという快人物の物語です。
物語は、コンスタンティノープルが第四回十字軍によって侵略されるなか、東ローマ帝国の廷臣ニケタスを救ったバウドリーノが、ニケタスに対して彼の一生を物語るという形式で語られます。
語学と機知にたけ、一介の農民の息子でありながら皇帝に見初められて養子となり、彼のもとで活躍するバウドリーノ。皇帝が直面する危機を、彼ならではの嘘と機知とで乗り越えていくところは、まったく痛快です。
とくに東方の「司祭ヨハネの国」からの手紙をでっちあげるところでは、いったい、何が嘘で何が嘘でないのか、その基準を読者である自分がゆるがせられる気持ちにさせられました。何しろ、嘘を書いているバウドリーノたちが、それを嘘でないと思っている!
書物に書かれていることは、嘘なのか?それとも書物に書かれているからこそ真実なのか?では嘘を信じる者が行って現実となったことは?うさんくさい「聖遺物」などを通して、「いったい真実とはなにか」とエーコが問いかけているようにも見えます。なにしろ、主人公バウドリーノは「大嘘つき」と呼ばれながらも、その嘘でかずかずの手柄を立てるのですから。それに、彼はいつだって、良かれと思って嘘をつくのですから。
バウドリーノ(下)
上巻では、フリードリヒ赤髭王とともにヨーロッパにいたパウドリーノが、司教ヨハネの国に向かって旅立つ。彼が語る旅でみたものは・・・。日本人には、デジャブを感じるかもしれない。澁澤龍彦『高丘親王航海記』のアンチポデンス。高丘親王は東から海路で、パウドリーノは西から陸路で、違う宗教でも同じ目的を目指す。エーコと澁澤が同じルーツから取りだしたものは何か。ただ、エーコは最後まで書けたが、澁澤は喉の真珠とともに旅の途中で高丘親王と心中するするしかなかった。
上巻が歴史的事実をもとに展開するのと比べて、下巻は歴史的事実のパウドリーノ的真実をから始まり、あとはめくるめく中世いや博物学の世界へ。
澁龍ファンにはにんまり、荒俣宏ファンもうなずく下巻。こんな楽しみ方をできるのは、日本人の特権です。
薔薇の名前 特別版 [DVD]
難解といわれる映画ですが、私は個人的にかなり好きな映画です。それに、難解といえども骨格はミステリーですから、犯人がいて、動機があって、主人公がそれを解決するという基本構造は他のミステリー映画と変わらないので、この作品の舞台装置として使われている西洋中世の思想になじみがなくても、なんとかそれなりに楽しめるのではないでしょうか。もちろん、西洋中世に対するアリストテレスの影響力の強さとか、異端審問に関する知識などを持っていればそれにこしたことはないのですが・・・。
また、映画の内容以外にも、この映画の見所としてセットの作りがあげられると思います。日本でこの映画が公開されたのが、確か昭和六十二、三年のことだったと思うので、当然のことながら今のような映像技術はありません。それゆえ、この映画のセットは恐らくその全てが実物でしょう。実物のセットで、これほど質の高い世界観を作り出している映画にはそうお目に掛かれるものではないと思います。そんなセットの凄さをこのDVD版では美しい映像で、余すところなく堪能できます。
これだけ書いてくるとものすごく絶賛しているようで、星三つの評価が不審に思われてしまうかもしれませんが、問題なのは他の人のレビューにも書いていましたが、この映画の一番終わりに出てくる「薔薇は神が名づけた名なり 汝の薔薇は名もなき薔薇」という一説がなぜか入っていないことなんです。この一節はビデオ版だとしっかりと入っていて、映画の終わりにピンク色の文字で画面の中央に映し出されるのですが、なぜDVD版ではこれをカットしたのでしょう?全く理由がわかりません。
総じてビデオ版なら星四つ(セットの美しさを表現できるほど映像の質が高くないから)、DVD版なら星三つ(最後の一説がないから)といったところでしょうか。
薔薇の名前 特別版 [DVD]
この映画、恥ずかしながら、20年くらいの間に、VHS、TV放送、DVDとトライして、実は5度目位の鑑賞で全編見続けることができた。その後は、もちろんお気に入りの映画の一つである。
それだけ、私にとっては、最初は少し難解でとっつきにくかった独特の世界観をもつ作品。原作を読んでいないので、それもお恥ずかしいが、たぶん映像になっているものの方が解りやすいような気がして、まだ目を通していない。
中世の暗黒部分の歴史に触れるということ。それだけでもう、知ってはいけない、見てはいけないような気にさせられた。
14世紀初頭の北イタリアの修道院で行われる会議のために、ウィリアム修道士(S・コネリー)と彼の弟子のアドソ(C・スレーター)が訪れる。その修道院で連続殺人が起こり、ウィリアム達が謎を解いていくミステリー。
おどろおどろしい、中世の雰囲気が濃厚に描かれる。文書館などのセットを筆頭に美術、小道具に至るまで、こだわりぬいて作られていて素晴らしい。アノー監督のリアルで少し残酷で退廃的で官能的な映像美に触れた。
そして、何よりS・コネリーの重厚だが、知的でウィットに富んだ会話が魅力的で、弟子を優しく真理の道へと導いていく演技がいい。
「宗教」とは何か?戒律は誰がつくり、誰のためのものなのか?を考えさせられる。
異端とされる者たちへの残虐きわまりない刑は、本来は人間として許されないことである。教会では食べ物にも困らない生活をしているのに、村人は修道士達が捨てたごみを拾い食らいつく。
アドソが村の女と、肉体関係を結ぶが、そのことに関してのウィリアムの反応が、実に人間味にあふれていい場面だな、と思った。
ラストも、温かな慈愛の精神と救いが余韻に残る。