聖の青春 (講談社文庫)
去年、広島に出かけた際に書店の店頭で、新刊コーナーに平積みされているのを何気に手にとりました。
将棋なんてできないし、村山聖という人のことも全然知らなかった。でも何故か惹かれるものがあったのです。
時間つぶしにその書店併設の、眺めのいい喫茶コーナーで読み始めました。数ページも読まないうちに、今までに感じたことのない、心が揺さぶられるような衝撃を憶えました。それから夢中で読みすすめました。
ハッと気がつくと、目の前には美しい夕暮れの広島の街並みが・・。
それを目にしたとたん、涙が溢れてきてとまらなくなってしまいました。というのも、偶然にもこの物語の主人公である村山聖さんは広島の出身。今、私の眼下に広がる街の片隅にある将棋センターに幼きころの聖が通っ!ていたことを思い浮かべては涙しました。
この本に出会ってから、大崎善生さんのファンになり全ての著作を読んでいます。ノンフィクション、小説、エッセイ、どれもすべてオススメですが、この「聖の青春」がやっぱり最高傑作だと私は思っています。
村山さんの人生そのものを、たぶんありのままに近いかたちで飾ることなく書き綴っているのだと思います。大崎さん自身も村山聖という棋士が大好きだったということがありありと伝わってきます。
アジアンタムブルー [DVD]
この映画は若い恋人の死を扱ったもので、よくあるパターンの作品だといえるかもしれない。しかし作品中に小道具として出てくるカメラや写真が、葉子という主人公の心情を効果的に表現しているように思われた。私は正直いって感動した。
葉子は写真家志望の若い女性だが、彼女は水たまりに映った風景や人物ばかり撮っている。現実を何とか自分なりに受け入れられる形に切り取ろうとしているかのようである。またカメラは一瞬を固定して永遠のイメージに変える装置である。カメラに情熱をささげる葉子は、自分のはかない命を予感して、それに永遠の形を与えたいと願っていたかのように思われる。
死を覚悟した葉子と恋人は、治療を放棄してニースにやってくる。映画の最後に、ニースの海を見つめる葉子と恋人の後姿の写真が大きく映し出される。それは自動シャーターで撮った写真であるが、ニースの海という水たまりを見つめる二人の一瞬の愛の、永遠化されたイメージともいえる。
現実の大きな世界より、水たまりのような小さな世界を好むのは、現実逃避といえるかもしれないが、そこに愛が生まれるなら許されるだろう。
葉子を演じる松下奈緒からは、はかない命の美しい透明感が感じられる。あまりにいじらしくて抱きしめたくなったほどである。ただ私は彼女のファンなので、あまり客観的な評価はできないかもしれない。
将棋の子 (講談社文庫)
雑誌「将棋世界」の元編集長であった大崎善生氏の著書.本作で講談社ノンフィクション賞を受賞.
内容は主に奨励会に所属していた数々の会員、それも夢半ばで破れて奨励会を退会していった会員達のその後の人生について書かれています.その中でも、著者と同じ北海道出身のある奨励会員のその後を中心に作品はまとめられています.
とにかく心が動かされる作品です.この感情を何と表現すればよいのかわかりません.ひとつ言えることは涙が止まらなくなるということ.著者と同様に泣き、怒り、心配して、喜び、読み終えた後には他の本では味わえないような多くの感情が渦巻いています.
夢を語るのは簡単ですが、それをかなえるためには途方もない努力と才能、運が必要になります.才能だけがあっても、そしてそれに努力を加えたとしても、時には残りが欠けてしまって残念な結果になることもあります.そうなった時に人はどのような思いを抱いて後の人生を過ごしていくのでしょうか.一握りの才能と成功を同時に手にした天才達の影に隠れて夢を捨てる、または変更せざるをえなくなった天才達が多数描かれています.将棋のことを知らない方でもお薦めします.ぜひ一度手にとってみてください.