オリンポスの果実 (新潮文庫)
オリンピック選手でかつ作家から、好きでした好きでしたとラブレターをもらったら好きになるだろうか?それも、みんなに読まれることを承知のラブレターである。
勝手に好きになるのならまだ分かるが、このように告白されては困惑するだけであろう。
しかし、第三者が読めばこの片思いの恋は切なさを誘いついつい作者に肩入れしてしう。19歳の作者はもうめろめろである『どこが好きかときかれたら、ぼくは困るだろう。それほど、ぼくはあの人が好きだ。綺麗かときかれても、判らない、と答えるだろう』ともかく、彼女の総てが好きで好きでたまらないのだ。
それでいて、『ぼくはあのひとについて、なんにも知らないし、知ろうとも、知りたいとも思わない」とくる。
とにかく、一緒にいるだけで幸せなのだ。それというのも、オリンピック会場に向かう船に乗り合わせているため、いやおうなしに出会う機会は多い。作者は、それ以上のことは望んでいない。純愛というより、まさに片思いでしかない。
最後は、スタンバイミーの映画のように友人達のその後が紹介されて、作者が本当に聞きたかった言葉で終わっている。
切ない。作者がその答えを聞けたのか、おそらく聞かないまま、その思いを胸に秘めて自殺したのだろう。