チグリスとユーフラテス
本当に読み応えがあって考えさせられた作品。
人気のない宙港に飛ぶホタルの夢から、作者はこの物語を考え付いたそうですが、浮かんでくるイメージが、残酷なのにとてもきれいです。
それぞれ違う女性が語り手となって繰り広げられる連作短編なのですが、その女性たちは皆、惑星ナインの最後の人類となったルナがコールド・スリープから叩き起こした、命に限りある人たちなのです。そしてルナもまたいつかは死に、惑星の人類は絶滅する、そんなラストが最初から予測できるにもかかわらず、決して読後にあるのは絶望感ではなく、切ない余韻と、暖かな救いと、今生きていることへの感謝だと思います。
最後のルナの台詞には本当に泣かされました。
今生きる意味を探している人、生きる意味を持っていない人に強くおすすめします。そして、今自分は生きる意味を持っている、と言い切れる人こそ、実は読んでおく作品だと密かに思いました。
チグリスとユーフラテス(上) (集英社文庫)
『人はなんのために生きているのだろう?』
『大切な事ってなんなの?』
そんな疑問を抱いている人に是非お勧めしたいです。
新井素子先生の作品全般に言えることですが、読みやすいです。本の世界にすぐさまぐいぐいと引き寄せられてしまいます。
しかし、その反面、内容はとても濃く、つまっています。
この本は、自分自身について、そして生きる事について、考え、向き合うよいきっかけをくれると思います。
この本が好きな人に同作者の作品、『ひとめあなたに・・・』をお勧めしたいと思います。
同じように“人は何のために生きているのか”“人生で大切なことって何?”というテーマで書かれた本です。
両方の作品を読むとまた、さらに深みが増してGood!!
SIBERIA GIG
未発表音源のチグリス河やMONEYが収録されています。
チグリス河が最高にかっこよいです。
「hey you 花束には hey you 赤いリボンが hey you 欠かせないのさ」
「hey you 鮮やかな愛 hey you そこへ行かないか」
いつもながらのベンジー節もさることながら、歌メロに併走するようなサーフロックっぽいギター音がたまりません。仕事中などにふと思い出すと一日中頭の中をグルグル回ります。笑
チグリスとユーフラテス(下) (集英社文庫)
新井素子懇親のSF、人類が移民したある星の逆さ年代記下巻です。
ハードカバーが発売されたときは本屋に平積みで、私の目には後光を放っていました。普段文庫本ばかりでハードカバーを買わない私はそのとき中もあらためずレジへ持っていきました。大正解でした!私の大事な本になりました。それが本書「チグリスとユーフラテス」との出会いでした。それがついに文庫本になった。「買う!」
レイディ・アカリ(穂高 灯)と相対する惑星ナイン最後の子、ルナ。ルナはアカリに教えられる。たとえ最後の「子(人間)」であっても最後の生命体ではないということを。ルナも命を持つものの「母」になれることを。たとえ移民は失敗しても、この星は生き続けていくことを。
新井素子は、すごい。
「星へ行く船」シリーズを読んでいた頃は新井素子は面白くて楽しい作家でした。コバルトシリーズを卒業して、だんだんなじみの薄い作家になってしまいました。
そして、「チグリスとユーフラテス」衝撃でした。
移民してからルナまでの400年の間ナインでどんなシステムの社会がよいシステムなのか、模索され変容されていった社会形態。そして、人類の「生きる意味、そして目的」。
ルナが求め続けた問いにアカリは答えを示す。そしてルナは答えを出す。上巻からここにたどり着くまでの、長い、練りに練られたストーリー、そしてその意味。
読後、私は涙をこぼしていました。誰もいない宙港、蛍の光、そして、一番星。私には見えました、一番星が。
新井素子はすごい。