無法松の影 (文春文庫)
無法松とはなかなかの着眼点かも知れない。
「にっぽんの男らしさ」を追って行くには最適の題材であるかも知れない。
ある一定以上の世代には強く印象に残る無法松。
著者もそうであるが、わたしも実際の所あまり印象のない遠い存在。
消えつつある昭和のノスタルジーの代表かも知れない。
著者は、最近はいろいろな文筆活動を行っているが、元々は民俗学者。
民族学の分野の代表著作のようだ。
戦前から戦後にかけての無法松の描写の変遷から現在のおける風化まで、無法松を通じて「にっぽんの男らしさ」とは何かを探していく。
最後は著者の内面世界にまで踏み込んでいく。無法松というひとつの男らしさを追求する打ちに自己の内面へ沈殿し、その著作の動機や原風景の理由を追及していくという一種、私小説的な部分もある。
文体は語り口調風で、それ自体が民族誌といえようか、あまり読みやすいとは言えないが、なかなか風情ある著作であるように感じた。
無法松の一生 [DVD]
一番最初に見たとき、坂東妻三郎の演技と魅力にひきこまれた。なんて人懐っこくて、暖かな優しい笑顔なんだろうと思った。伝説の映画。
未亡人に寄せる思慕の情。切ない。男らしくてけんかっ早いのに、恋にはめっぽう不器用で紳士的な無法松。
子役で長門裕之が出演している。これがまた上手い。
太鼓打ちのシーンも名場面。
見た後でさわやかな余韻が残る。いいものを見たなという気がした映画。
三船版も見たが、三船は男っぽさと粗野さが前面に出た無法松。
人のよさも併せ持つ暖かなイメージで人を引き込む無法松は坂妻が上だと思う。
無法松の一生 (人間愛叢書)
いかにも大甘なので星1つ減らしたが、これは私の照れかもしれない。
映画(三船敏郎版しか観ていない)より抑制が取れたラストに、思わず心の中でつぶやいた。「松さん、良かったなぁ。」