遠雷 [DVD]
巨匠・根岸吉太郎が日活ロマンポルノから劇場一般映画へと転向した第1作。主演は「サード」の永島敏行で、共演は石田えり、ジョニー大倉、ケーシー高峰など。1981年上演。
宇都宮市役所に勤務していた立松和平による原作ですが、トマト栽培に力を入れる若者(永島)とその周辺の人間模様をリアルに描いています。見合いで知り合った若い女性(石田)とその日のうちにモーテルに直行してしまうような「現代性」を持ちながらも、愚直なまでにトマト栽培に命を賭ける純朴さ。一方、宇都宮という都会でもなく、また完全に田舎でもない微妙な立ち位置の土地柄で、集団団地や東京で働く兄などの「都会化の象徴」と、場末のスナック、地元の選挙、村を上げて夜通し行われる結婚式などに象徴される「土着的なもの」との狭間で揺れる若者の姿が印象的です。
主婦と駆け落ちしたうえで相手を殺害してしまった親友(ジョニー大倉)と永島とのやり取りで印象的だったのが、「俺だってタイミングによっては人を殺したかもしれないんだな」という台詞です。ほとばしるエネルギーを郊外特有の閉塞感の中でもてあまし、それが何かのきっかけで危ない方向へと転びかねない若者特有の危うさがこの台詞に集約されているからです。誰もが経験する将来に対する漠然とした不安感、周囲や環境に対するえもいわれぬ苛立ち、もてあますほどのポテンシャル…。リアルタイムで観たときは当事者としてはあまり感じませんでしたが、改めてみると痛いほどよく理解できます。
純朴なようでいて結構大胆で現代的な娘を演じる石田えりの瑞々しい演技は、いま見てもとても印象的です。
道元禅師〈上〉 (新潮文庫)
道元禅師の生まれから渡宋、帰国、永平寺建立へ
現代社会の「複雑さにまどわされている人々」に
ただただ坐りなさい・との行動=こころ
上・中・下三巻の雄大な世界を立松和平は
正法眼蔵ほか読み込んできれいに描いてます。
付き人「右門でございます」の語りが飽きさせない
光の雨 特別版 [DVD]
「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を見た後に、この作品と「突入せよ!あさま山荘事件」を続けて見た。警察側からの視点から描いた「突入せよ!〜」は連合赤軍が主題ではなく、警察内部の物語を描く題材として、あさま山荘事件が描かれているだけで、純粋な娯楽作品であった。
連合赤軍そのものを主題にしているのはこの「光の雨」と「実録・連合赤軍」であり、「実録・連合赤軍」がストレートに事件の経過を描いているのと対照的に、この作品では劇中劇の「光の雨」という映画の中で連合赤軍兵士を演じる現代の若者たちの、連合赤軍事件と兵士たちへの思いを平行して描くことで、フィルターを一枚かけている。
しかし劇中劇の中で赤軍兵士を演じる俳優たちの心情もいまひとつ伝わってこない。高橋伴明監督自身が一歩引いた視点から描きたかったのかもしれないし、大杉蓮扮する監督役に自己を投影していたのかもしれないが、この監督失踪のエピソードもなんとなく消化不良になってしまっており、劇中劇という構成自体は全体に成功しているとは言い難い。原作の「光の雨」をそのまま映画化したほうがよかったのではないだろうか?
劇中の映画で山本太郎が演じた連合赤軍のリーダー(森恒夫)はただのサディストのようにしか見えなかったが、実在の森恒夫が敵前逃亡したり、逮捕後も完全黙秘できなかったりと、革命軍のリーダーとしての資質に疑問が持たれていることを考えると、このような描き方もあるのかと思った。さらに山本太郎が俳優としてこの役をどのように演じるのか判らずにいる描写があるが、山本太郎は明らかにミスキャストだと思う。「実録・連合赤軍」の森役の地曳豪が素晴らしかったのでどうしても比較してしまう。他のキャストも総じて「実録・連合赤軍」の方が良かったが、裕木奈江の演技だけが素晴らしかった。
21世紀に入ってから10年間にすでに3本もの連合赤軍関係の映画が作られており、それなりの評価を得ている。ここまできたら、是非とも長谷川和彦監督の幻の企画「連合赤軍」も映画化して欲しいと思う。
永平寺 「104歳の禅師」・「修行の四季」 [DVD]
「104歳の禅師」では、宮崎禅師のなんとも穏やかな言葉とその奥にある厳しさが心に残こる。その宮崎禅師に立松和平が、あの独特の語り口で向き合う姿は不思議な空間を創っている。特に、はなしの間がよい。
また、ハイビジョン撮影の「修行の四季」は、美しい自然の中での厳しい修行の姿が紹介され、禅の理解に役立つと共に、宮崎禅師の言葉を支えるものが分かる。