ニック・ドレイク―悲しみのバイオグラフィ
こんなに悲すぎるソングライターの物語がまさか邦訳されるとは。
ストレンジデイズの勇断に拍手です。
ジョーボイドが去ったことで、彼の孤独に拍車がかかる様子がよく分かります。
洋書ですが、ジョーボイドの自伝、White Bicyclesもあわせて読めば60年代末の英国フォークシーンとニックドレイクに少しは迫れるかもしれません。
謎の多いニック・ドレイクの姿を追いかけた唯一の和書として超貴重な一冊。
Five Leaves Left
死の直前のPink Moonが非常に多く語られるNick Drake、確かにあのアルバムの、心を打つ奥深き声と演奏には語らずにいられないものを含んでいますが、この1stの高い芸術性ももっと注目されてしかるべきだと思っています。
聴いた当初からですが、3. Three Hours, 6. Cello Song などにみとめられるオーガニックなビート、これらには時間や空間を超越したような不思議な響きがあり、なんとなく大陸的な要素の存在をいつも感じていました。調べてみるとNickはミャンマー(旧ビルマ)の生まれで、幼年期にはインドでも過ごしたことがあるとのこと。なるほど、いわゆるUKの暗さ・湿っぽさだけでは説明しきれない更に深く痛々しい悲哀、そして今日のBritish Folkの源流の一でありながら歴史に埋もれず今尚確固とした地位にあることなど、こうした疑問が一挙に解決できた思いです。「孤高の天才だからだ」という説明だけでは納得しきれないほどの独特な音楽性は、やはり突然ブリテンの地で生じたわけでなく、不思議な経路をたどって醸成されたものでもあったのですね。
うんちくに走ることほどオサムイことはありませんが、こういった経緯を知ることにより、ますますNick Drakeという音楽が奇跡的で輝かしいものに思われてきます。
多くの人が心を奪われるNickのエモーショナルな面から考えますと、もしかしたらやや外れるのかもしれませんが、個人的には上述のThree Hoursが最もお勧めです。このギターの調べには戦慄するほどの鋭い芸術性が感じられます。これを、今日のように情報が飛び交わぬ当時に一人の人間が編み出したというのはまったく信じがたく、また一音一音の連なりに並々ならぬ追求の意志が感じられます。まさに孤高という形容を贈るにふさわしい曲です。もちろん他曲も含め、是非一聴を。
Bryter Layter
どれから聴こうか迷って最初にこれに手を出したのですけど、順番的にはあまり正しくなかったかもしれませんね
これはこれで名盤なんですけども、ニックドレイクの一番濃いところとは違うのかもしれません
素晴らしいアルバムであることに違いはないのだけど、
これから入ると、ニックドレイクにやられてしまった!
という体験には至らない人がいるかもね
他のを聴いてからこれを聴いた方が、これの良さがよりわかる
他のを聴いたら、人によっては、これは違うって思うのかもしれないけども、
いや、他のを聴いたらばこそ、このアルバムの良いとこが解るってものじゃあないでしょうか
だから、最初にはこれは聴かないでね
出た順番に聴いて良いんじゃないでしょうか
とはいえ、とはいえだ、美しいアルバムですね
ピンク・ムーン
ジム・モリソン、ブライアン・ジョーンズ、カート・コバーン、イアン・カーティスと、ロックのカルトヒーローは一杯いますが、シンガーソングライターとしての「カルト」の名を欲しいままにしているのは、バックリィ親子とこの人でしょう。
シンガーソングライターといえば、今ではどこかの極東の国の地上波やネットでも浸透している呼称です。
でもニックが残したこれらの作品を聞けば、そこでの「SSW」の扱われ方は形骸化しきったものでしかないということは明らかでしょう。
ピアノとアコギだけで、オーバーダブほとんどなし(おそらくヴォーカルトラックを含めても4〜8トラック以内でミックスされているはず)。
まさに生前彼が言ったとおり「装飾無し」の音像は、だからこそ人の耳にストレートに突き刺さってきます。
彼の曲を聞いていて思うのは、彼は決して安易なメランコリックに頼っているわけではないということです。
ピンク・ムーンに収められた11曲からは、手前味噌な悲しみなど、全く聞こえてきません。
後年のフォークシンガーたちの作品群や、シリアスでメランコリーな音像に頼ったオルタナロック勢が、いつまでたっても彼の声を越えられないのは、まさにこういうところにあるのではないかと感じます。
どちらかと言うと、ここから聞こえてくるのは、空虚に近いものです。
英語を聴き取れる方ならば尚のことそう感じとるのではないかと思いますが、意図的にナンセンスな歌詞も相乗して、この作品は真っ白なからっぽの空間を漂っているかのような感覚にさせてくれます。
それは、ある意味ではレディオヘッドなどよりさらに絶望に近い音楽だということの証左だと思います。(もちろんトム・ヨークの声はまた別の意味で素晴らしい)
全く売れず、ドラッグに溺れ、精神病を患い、今更自分には曲を書く以外のことはできっこない。
このアルバムを出したところで、多分大衆にはほとんど届かないんだろうな。俺のやってることに意味はあるのだろうか。
本当にそんなことを考えていたかどうかは本人でないとわかりませんが、この歌は彼が生きている間は大衆に見捨てられたまま埋もれていました。