最後の忠臣蔵 [DVD]
幾多の忠臣蔵作品で、後日談物は初めてだったのでひかれました。鑑賞し終わった後に原作を読んでみたくなるほど、とても良かったです!主演の上川さん始め、豪華なキャストとその演技力も素晴らしく、美しい言葉遣い、心に留めておきたい名台詞の数々を見つけることが出来ました。「忠義に死するは容易なこと、生くることこそむつかしい・・・」「忠義に死んだものは誉れに高く、残されたものはぶざまな生きようをしいられる」この時代のそれぞれにおかれている立場の考え方の相違、想いなどが描かれており、忠臣蔵ファンならずとも見ていただきたいですね。いろんな意味で日本人の心底に流れる思想を揺り起こしてくれるような静かで力強い作品でした。
四十七人の刺客〈上〉 (角川文庫)
内匠頭は何故刃傷に及んだのか、その真相は全く不明であり一般に信じられている様な吉良による陰湿ないじめといったものも一つの仮説でしかない。
本書では刃傷の原因は不明のままとし、吉良が内匠頭に賄賂を要求したが拒否されたためにいじめられたのだという噂を大石らが意図的に広め、世間を味方につけたのは面白い解釈だと思う。
何といってもクライマックスの討ち入りの場面は迫力満点で、「十三人の刺客」など多くの傑作時代劇の脚本を手掛けてきた著者だけのことはある。
数ある忠臣蔵の中でお薦めの一冊。
四十七人の刺客 [DVD]
オーソドックスな忠臣蔵が見たければ他にオプションはいくらでも有ります。(TVの特別ドラマだったけれども吉右衛門が大石を演ったのは良かったね〜。)そもそも健さんも浅丘ルリ子も時代劇向きじゃないんだし。言わば手垢の付いた題材を如何に楽しめるエンターテイメントに料理しようか、という池宮さんの原作に共鳴した市川監督が手に唾して作った新解釈の忠臣蔵映画です。テンポも悪くないし、私は好きな作品です。中井貴一はちょっと歌舞伎が入っている感じで、この頃からホント、良い役者になっていきましたね。
最後の忠臣蔵 (角川文庫)
かつて書名が『四十七人目の浪士』だった際に新潮文庫で読んだ。
深い感銘を受けた。昨年映画化して、劇場に観に行った。
近年の時代劇映画としては、実にていねいにつくられていると感心した。
これを機に、再び本文庫で読んでみた――やはり、すばらしい。
予定調和的な美談ではなく、「討入り」直後の関係者の心情から照射し、
公儀からの咎めが及ぶことへの懸念や、厳然たる身分社会を前提にして、
まことに皮肉な視点で書き起こしたところに、池宮の真骨頂があった。
発端近く、大石の命令でせっかく「報告」に出向いた寺坂吉右衛門が、
三次浅野家の江戸屋敷で、門前払いを食わされる設定に、まずしびれる。
屋内にいて「報告」を聞きたい瑤泉院(内匠頭未亡人)に逢えないどころか、
三次浅野家の奥用人から、寺坂はけがらわしい者のように冷遇されるのだ。
足軽という身分の低さ。
かくして、大石が寺坂に命じた「報告」の旅の想像を絶する苛烈さが
想像され、陰翳が濃いであろう物語の前途に読者は引き込まれていく。
池宮の原作の素晴らしさは、こうした「残余」の苛酷さを、
美学にまで昇華して描いたこと。
一瞬の死は美しく、残余の生は厳しい。
その厳しさは、しばしば無惨で醜悪なものを招く。
だが池宮は、大石という、実在した“巨大な恒星”ながら、ある意味で
“虚構の光源”を、まことに見事に設定したのである。そして、
その光芒に照らされた最下層の浪士・寺坂や、大石家の家士である
瀬尾孫左衞門らを、まばゆいばかりに描いた。
かくして、“巨星”大石との対比の中で、
「討ち入っても切腹しなかった士」(寺坂)
「討ち入る意志をもちながら別命ゆえに叶わなかった士」(瀬尾)
が、鮮やかに浮かび上がった。
もちろん、彼らのまばゆさの裏には、漆黒の深い闇がよこたわる。
映画は、物語後半で登場する瀬尾孫左衞門と、彼に養育された
大石の遺児(おかるとの間に産まれた娘)の運命に焦点を絞り、
なかなか見事な演出だったけれど、こうして小説のほうを再読すると、
クライマックスの嫋々たる筆致、深い余韻ともども、やはり、
「原作」あっての物語、と痛感させられた。