ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争
本書は、アメリカのメディア戦略がいかに政治に利用されているかについて、戦争を題材に描かれている。
著者の熱心な裏とりによって、本書のレベルは非常に高いものとなっており、読んでいて当時の状況がイメージできる。
アメリカによる戦争宣伝は、これからもより頻繁に成されるであろう。9・11のテロ以降、ニューヨークの悲惨さばかりが何度も報道されたが、アフガン空爆での民衆の被害はほとんど報道されていない。そして、今ではイラク攻撃のために、メディア戦略が採られている。
本書を読むことで、アメリカの暴力の正当化がいかになされ、メディアの影響力がいかに強く、それを評価する消費者がいかに鋭い洞察力を求められるかを感じるであろう。
ボスニアで起きたこと―「民族浄化」の現場から
冷戦終結後、ユーゴスラビアは次々と分裂してゆき、それと共に戦争が起きる。中でも、ボスニア・ヘルツェゴビナで起きた戦争は、セルビアによる民族浄化というムスリムに対する虐殺行為が伝えられた。しかしながら、国連軍の空爆などの映像をTVを通して見た日本人の多くは、どうしてこのような事態に至ったのかなかなか理解出来なかったとのではないだろうか。著者は、砲弾が飛び交う現場に赴き加害者と被害者の両方を取材することにより、50年前に起きた、ナチスドイツとその傀儡であるクロアチア(ムスリムはクロアチア側)により行われたセルビア人に対する「民族浄化」の裏返しの行為ではないか、と推測する。やらなければやられる、50年前の殺戮を受けた民族の記憶が生み出した恐怖によって引き起こされた新たな恐怖。民族という現代の新たな国際問題の根本に迫ろうとした力作である。
ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)
91-95年のユーゴ内戦 (ボスニア紛争) におけるボスニアと米国PR会社の行った情報戦を、同じメディアであるNHKが 2002年に丹念に取材し、そのPR会社の標的になった相手にも裏付け取材を行った丁寧なドキュメンタリーだ。NHK放映時の表題は「民族浄化」。その番組に盛り込めなかった内容も盛り込まれている。表題の「広告代理店」は当時これしか日本語が引き当てられなかったのだろうが、正確には「PR会社」。つまり本書は PR(パブリック・リレーション) の役割と手法について、学ばせてくれる内容となっている。
内容は、ボスニア紛争の起こりから、その集結までを 14章の時系列に紹介。ボスニア・ヘルツェゴビナの外相に就任したシライジッチ氏とPR会社 ルーダー・フィン社のジム・ハーブ氏が、その時々をどう分析し、どのような手を打ったのか、その効果までも具体的に紹介している。10年前の内容になっているが、ルーダー・フィン社では、この紛争への協力を行った後、かかった費用を回収するために全米PR協会宛に、自分たちが行ったPR活動について詳しい報告を提出しており、関係者の曖昧な記憶に頼るのではなく、事実に基づいた内容が紹介されているので、シンプルだが非常に迫力と説得力のある内容になっている。このあたりはさすが NHK。
日本でもネットの普及により、単なるテレビCM、単なる広告というものの価値が下がってきた。その結果、広告ではない「PR」に注目が集まりつつある。広告とPRの違いについて解説する書籍も増えたので、それらを一読して前提知識を持ってから、本書を読むのがお薦め。現場で、PRのプロが何に気がつき、それに対してどういう手を打ったのか、一連のビックプロジェクトとして追体験することができる。内容には少し物足りなさは残るものの、読みやすい1冊としてお薦め。