提婆達多 (岩波文庫 緑 51-5)
提婆達多は釈尊の親戚です。本人も極めて秀でた才能を有するにもかかわらず、彼は常に釈尊を尺度に自身の行動と人生をいきていくのでした。すなわち、”釈尊”という人物に”執着”することによって、物欲、名誉欲、金銭欲などの様々な執着による懊悩苦悩が彼を襲ってきます。この執着は、われわれ多くの普通の人間=凡夫の行いに付随せざるをえないものですが、これこそが全ての苦悩の根源であることを、本著は私達にきづかせてくれます。苦悩の根源を断ち切ることの大切さを、本著は読者に訴えてやみません。さて、釈尊が見いだした真理を、私なりにまとめあげると以下の3点になるとおもいます。1)ものはうつりゆく:栄枯盛衰、一定のものはない、2)すべての物事には関連がある:因果、なにひとつ単独では作用しえない、そして3)執着こそが苦悩の根源:無執着の最高の境地、涅槃こそ最上である。本著によって、われわれは、そのいずれもがまごう方なき真理であることを、改めて知りうることになるのです。より詳細に深めたい方は、友松圓諦先生の『仏教聖典』をともに拝読されると、人生についての執着、すなわち苦の素因から”解放”されるきっかけとなるかもしれません。私は本著を読んで、巷間で常識とされている虚礼、冠婚葬祭や人間関係による執着を、年齢を重ねるごとに、徐々にですが、整理していこうと決意したのです。不可能とは理解しつつも、少しでも釈尊の境地へ近づくために。