男性・女性 HDニューマスター版 [DVD]
ゴダールの青春映画は面白い。『小さな兵隊』も『女と男のいる舗道』も『中国女』もいわば青春映画。この『男性・女性』からは過激色は取り除かれているものの、青春映画としてはかなり面白いと思います。
15のショートストーリーから成るこの作品には明確なストーリーはありません。が、しかし60年代半ばのベトナム紛争や左翼思想のなか揺れるフランスの青春群像がときに意味ありげに、ときに虚無感たっぷりにシャープに描かれて興味深いのです。
ここで、特に面白いのは男性と女性の生活に対しての視点がコントラストよく描かれていることです。ジャン・ピエール・レオ演じる男性ポールはある意味で生真面目で、とことんまで考え抜き自分の主張を通すことに躍起になっているように見えます。「男にはこだわりがあるんだ」といわんばかりに・・・。かわって愛らしいシャルタン・ゴヤ演じるマドレーヌには凝り固まったこだわりがないように思えます。「周りは関係ないじゃない、楽しければそれでいい」とこちらはいわんばかりです。むろん、これは二人の人格の違いからくるものなのかもしれませんが、私にはどうもゴダールが男女の違いを一般化した上で総括してスクリーン上に投影しているように思えてならないのです。「男は四角四面な存在」、「女性は自由奔放な存在」であるといわんばかりに。もし、それがそうだとすると、本編は実に巧みにその違いがプレゼンテーションされています。
マドレーヌが好きでたまらないポール。嫉妬や意思表示もしっかりしています。いっぽうのマドレーヌはポールのことが好きなのか嫌いなのかがわからない。最後の彼女の台詞がそれを端的に示していてきわめて印象的です。果たして男と女は永遠に完全に相通ずることはない存在なのでしょうか。そんなことをまじめに考えさせてくれるゴダールの青春譚は、男と女の永遠の謎が陰影の濃い印象的な映像を通してつづられる壊れやすくも味わい深い人間ドラマ。
女の一生 (新潮文庫)
日本の自然主義文学にも大きな影響を与えたモーパッサンの代表作。貴族階級の夢大きヒロインが、放蕩貴族との結婚によって様々な辛酸を舐めながら生きて行く様を描いたもの。
夫の浮気にも耐える、婚家のしきたりにも従う。そして、人生をまっとうするのが女の幸せだという論調。まるで、日本の近代を描写しているかのようである。作者がヒロインの姿を肯定的に描いている所に当時のヨーロッパの自然文学の限界を感じる。現在、本作を読んでヒロインの生き方に共感を抱く人は皆無であろう。むしろ、女中の方が人間らしい生き方をしている。
当時のヨーロッパの貴族階級の生活の香りと共に、(モーパッサンを含む)上流階級の女性観の狭さを感じさせる作品。
脂肪のかたまり (岩波文庫)
初めて読んだのは高2のときだった。図書館でタイトルが気になって手に取ったのだが、衝撃を受けた。
150年以上も昔の小説なのに、ここに描かれている人々の姿は現在のそれと驚くほどリンクしている。醜い利己心を秘めながら社会的地位を保持する勝ち組。ある意味もっとも残酷な中間的傍観者。理想にしがみついて全てを失った社会不適合者。善良で純粋な、誇りを失わない最下層。それらの関係を保つバランスが横暴なアウトサイダーによって破壊されるとき、エゴの暴力は最も弱い者にふりそそぐ。複雑なようでいて馬鹿みたいにシンプルな、我々が生きる社会そのものだ。
美しい話ではないし、読後感もあまり良いとはいえないが、それはこの作品が持つ圧倒的なリアリティの証左であると言えよう。是非とも出会っていただきたい作品。