百鬼園随筆 (新潮文庫)
小難しい説教本かと思いきや、ユーモアたっぷりの日常生活のなかから作者の正直な声が聞けて大変面白い。借金を払わなければならないので給料日は嫌いだとか、顔は他人のためにあるので見苦しくてはいけないとか、大人になるといえないようなことが書いてあって小気味よい。
ノラや (中公文庫)
雑誌などの色々な猫特集では必ず挙げられ、猫好きなら一度は読むべし、と言う名著。内田百間ならではの文章が文句無しに心を揺さぶります。「合点のいかない顔で抱かれていたノラ」というくだりが大好きです。ノラはどこへいったのでせう。
第一阿房列車 (新潮文庫)
笑いあり、妖異あり、戦後の日本の風土、列車事情の活写がありと、絶対にお勧めの一冊です。
笑いが、著者の人格が醸し出す天然自然のお笑いですから、最近鼻につく人工甘味料的な不自然さがなく、極めて喉越しの良い仕上がりになっております。
また怪異な出来事を書かせたら、日本文学史上屈指の手練ですから、その点もご心配なく。
卓越した文章に笑いながら、旅を楽しむように、読了できますよ。
まあだだよ デジタル・リマスター版 [DVD]
明治から昭和を生きた夏目漱石門下の小説家・内田百間。
この映画は、その内田百間と彼を取り巻く教え子との交流を
教え子の年1回の会合「摩阿陀会」を中心に描いたヒューマンドラマです。
随所にみられる内田の素朴で正直な人柄。それに惹かれて集まる教え子達。
内田を松村達雄、妻を香川京子、彼の教え子を所ジョージや寺尾聡、
井川比佐志らが淡々と、かつしっかりと演じています。
彼らの熱演により、毒のあるやりとりにも、ほのぼのさが現れています。
そして最も印象に残る「オイッチニ!オイッチニ!」の場面。
ばかばかしいですが、大の大人がこれほどばかになれる会の存在に憧れます。
黒澤監督の作品には、大きく分けて戦争ものとヒューマンドラマの2つがあると
思いますが、ヒューマンドラマの中では個人的におすすめの作品です。
ツィゴイネルワイゼン デラックス版 [DVD]
この映画に出てくる女優さんたちはなんとも綺麗です。太陽の下で遠慮会釈なく育った今時の「タレントさん」にはない妖しさと蔭りが魅力的。着物の袖をたくし上げた時に覗く腕の「骨」の透明感にははっとします。蒟蒻、お碗の舟、上がり框。監督はありとあらゆる小物を駆使して日本人の五感に訴える。全編ゆらゆらと島国日本の湿り気が立ち上る。これを美しい工芸品って呼んだ高名な方がいるのですが、そうでしょうか?これは狂気を秘めた芸術品と私には思えます。おまけによく見ると辛口のユーモアまで備えている。ヨーロッパのいかなる大芸術映画にも負けない素晴らしい作品だと思います。