芸人失格 (幻冬舎文庫)
この方の作品は恋愛失格を読んだ事がありましたが
こちらは暴露本か・・・という偏見でなかなか手にとれませんでした。
読み始めはそうでもなかったのですが
中盤から一気にその迫力に飲み込まれてしまいました。
一文字一文字目が離せず一気に読み耽ってしまいました。
物心ついた頃より培われた甘え下手、他人に弱さを見せられない不器用さ。
胸の奥に押し込んでしまった強烈なエゴは狂いそうなのに
それを他人には知られぬようにと気取ってしまう自分。
心の闇に膿が沈潜していく様をビニールの焼け焦げたような匂い、と
表現しているのですが、その行があまりにも解りすぎて切なかったです。
漠然とテレビの中の華やかな世界に憧れた子ども時代、
特別な人間だけが入ることが許された特別な世界だとどこかで信じていたが
その内情は、彼の想像以上の理不尽さに満ちたものでした。
れっきとした芸人を目指していたはずだったのに
お笑いなんて鼻から希望していなかったアイドル顔の男の子と
何故か芸人風味(テレビのバラエティ向きということでしょう)の
アイドルグループの一員として生きることを求められた日から歪みが加速していきます。
一般社会で生きられない人間が芸能界に行くと言われて久しいですが
実際は一般社会以上に人間関係のやりくりが求められる世界。
本当は縦社会の組織に入りたくなくて芸能界に入ったのに
結局サラリーマン社会と同じじゃないかという矛盾。
また、時代とともにテレビ(バラエティ番組)に求められる事は
少子化や核家族の増加に伴い人間関係の希薄になった世の中に
アットホームな仲良しさんムードを提供する事の色合いが強くなります。
時代に対応する才能と性格がなかった作者は
自分も、自分が無能なタレントと見なしていた存在と同等であることを認めざるをえなくなります。
マネージャーの裏切りや売れていく元相方の存在に打ちのめされ
元来人間関係を構築するのが苦手だった作者はやがて独りになります。
この世には芸能界に限らず、作者的な存在と元相方的な存在がたくさんいますが
自分が作者的な存在寄りだと思う人にとっては、心に強く残る作品でしょう。
第六章の終盤は、本当に素晴らしいです。
ただ個人的に、作者本人の主観が作品全体に横たわりすぎている感が否めず
一方的な言い分とも取れない表現が多々ありますので
今後の期待を込めて★は4にしました。