蛇にピアス [DVD]
好みの問題なのかもしれませんが私の場合は、繊細で透明感のある雰囲気とか凄く良くて、何度か見返したくなりました。
ちなみに、原作は読んでいません。
あまり芸能人とか詳しく無くて名前も知らなかったのですが、役者さんも合っていたと思います。
というのも、私には主要人物の男性二人の演技はどちらかと言うとあまりお上手では無かったように思えましたが、そんな所がむしろ若者の繊細さを出していたりして、映画の雰囲気に合っており、センスを感じました。
また、人がやたら存在感を出していないので、かえってその作品の中の本当のメッセージが際立っているようにも感じます。
だから、登場人物の性格とか行動とか関係とか、どんなことが起こるのかとか、勿論そこに焦点を当てて見るのも面白い作品だとは思いますが、作品全体のデザインだとか雰囲気だとかを感じ取りながら見るべき作品ではないのだろうかと思いました。そういう点でつまらない作品だと言われてしまいがちなのかもしれません。
最後に、レビューからはあまり良い評価が無いように思えてしまいますが、手を抜いたような映画だとは決して思えませんでしたし、きっと気に入る方もいると思いますので、一度見てみてはいかがでしょうか。
ソラニン
何だか久々に心にドスンと響くものがありました。
空虚な日常、ありきたりな人生、迷ってばかりで才能も何もない自分。
何も起きずに時間だけが過ぎていく。
でもたとえ惰性であってもそれだって生きているということだし、
自分にも前へ踏み出す地面が存在しているんじゃないか。
漫画「ソラニン」を読んでそんな感傷に浸っていましたが、
この何とも云えぬ儚さと小さな光を歌詞だけでなくメロディや曲展開でも
表現できている楽曲なのではないかと思いました。
「ジャーン」とギターが鳴り出してから
エンディングの感情剥き出しの叫び声まで
何度も何度も鳥肌が立ってしまう一つ一つの音。バンドの音。
最近の新しくて凝った楽曲も好きですが、
こういう青臭くてエモーショナルで切なくて、
初期衝動がぎっしり詰まったような曲を
私は待ち望んでいたんだなあと気付かされました。
「ムスタング」が「ソラニン」からインスパイアされて
作られたということを聞いてから原作を読んだので、
映画化の話を聞いた時は是非主題歌をASIAN KUNG-FU GENERATIONに
担当してほしいなと願ってはいましたが、
それがまさか実現されて、
その分思い入れもひとしおではありますが、贔屓目を無視しても、
心に記憶に残る名盤だと思います。
ちなみに「ムスタング(mix for 芽衣子)」は原曲から大きな変更は無いものの、
ホールツアーを思い起こさせるようなアレンジになっています。
ノルウェイの森 【コンプリート・エディション3枚組】 [Blu-ray]
まず、直子を演じた菊池凛子ですが、直子役には年をとり過ぎている感じもします。それに、下品とは言わないまでも、上品な感じは出ておらず残念。その意味で、「トニー滝谷」の宮沢りえは素敵だった。あの透明感は、村上春樹作品にピッタリ合っていたし、イッセー尾形の演技・雰囲気も良かったなぁと思ってしまいます。
ミドリ役の水原希子は、モデルで役者は初めてのようですが生命力に溢れたこの役では、棒読み的なセリフまわしがかえって魅力的。頬やうなじから発せられる若さは、それだけで生を表現しているかのよう。
そして、主人公の松山ケンイチ。さすがですね、どんなタイプの役もこなしちゃう。目線や微妙な表情がいい。
衣装、ロケ地、時代考証、トラン・アン・ユン監督のクラシックなテイストともマッチしています。ただ、村上春樹作品にある、いい意味でのスノッブさはないように感じます。
そして、マーク・リーピンビンの美しい映像。登場人物を真ん中に置かないアングルもユニークで、これも監督のテイストに合っています。
上下2巻の話しを133分に凝縮しているので、カットしたエピソードがあるのは仕方ないことですが、直子の自殺の後で二人で『淋しくないお葬式』をあげるエピソードがカットされているので、レイコが、ワタナベ君に横恋慕してて、直子が死んだのをいい事に、ワタナベ君とセックスしたとしか思えない。これはイカンでしょ。
突撃隊の柄本時生、永沢役の玉山鉄二はピッタリでした。ただ、登場場面がもっと多くてもよかった。レイコ役の霧島れいかは、印象は悪くなかったですが、歌がイマイチなのはねぇ。それに、(まぁ、版権の問題があるんでしょうけど)肝心のビートルズの歌を歌わないし。「イエスタディ」「ミシェル」などはともかく、彼らの心象風景を象徴している「ノーホエア・マン」は歌って欲しかった。
何はともあれ、鑑賞後は原作を読んだ時に感じた何ともいえない喪失感を味わいました。この言葉に出来ない感覚が、この物語の核なんですよね。たぶん。それは、ちゃんとこの映画にもあったと思います。
良くも悪くも強い印象を残す映画であり、私は肯定的に評価したいです。
ノルウェイの森 【スペシャル・エディション2枚組】 [DVD]
TVの特集でもやっていましたが、村上春樹氏のファンによる試写会でもやっぱり原作が好きという愛読者の方と映画も良いという愛読者の方がいました。これは村上氏の愛読者に限らず、どの映画でも原作の愛読者の数だけ物語の世界観、ワタナベをはじめとした各登場人物のイメージがあるので、そこが映像化すなわち映画化の難しさだったと思います。わたしのは原作を読んでいなかったので、すんなりとこの生きる事のせつなさと若さゆえ揺らぐ繊細な感受性を持った登場人物たちに共感をしました。映画を観た後村上春樹氏の「ノルウェイの森」を買ったのですが、映画のイメージと違ったら…と思うといまだに読めないでいます。
親友のワタナベ(松山ケンイチ)や恋人の直子(菊地凛子)にさえ何も告げず相談する事なく1人で逝ってしまったキズキ(高良健吾)のために、若く親しかったワタナベと直子はショックを受けます。時代は学生運動が続いている1969年、世の中が不安定だった時代のせいかキズキだけでなく他の登場人物たちも自ら命を絶つ人が多い映画だと思いました。
直子とキズキのいない喪失感をうめるように体をかさねつきあっていくワタナベ。そしてバンビのようにフレッシュな生命力に満ちている緑(水原希子)トラン監督がモデルとして活躍している映画出演の経験がない水原さんを観て緑役に決定したそうです。監督の細かい演出にクランクアップ後雑誌のモデルの撮影でどのようにポージングしていいかわからなくなってしまったほどトラン監督から受けた影響があったのだと思いました。映画初出演とあって演技のぎこちなさはありますが、かえってそれが緑役に有効に働いていたように思いました。
ワタナベの先輩永沢(玉山鉄二)のたたずまいと演技はあの時代を象徴しているかのようにハマっていると思い感心しました。そして美しくどこか淋しげなハツミ(初音映莉子)レイコ(霧島レイコ)がワタナベとラスト近くある展開になるのは、レイコは直子のワタナベに対する想いをとげてあげたかったのではないのかな?と思いました。トラン・アン・ユン監督は「心の痛みが繊細に描かれた美しい物語に心惹かれた」と公式映画ブックで語っていましたが、とても映像が美しく出演している役者すべてが美しく品があるのです。
村上春樹氏は長編の映画化には反対だったそうですが、以前からトラン監督の映画を観ていた事から脚本を見てから決めましょうと言われ、脚本から映画化権まで3年かかったそうです。それにしても若さとは何と無力で繊細でそしてたくましいものなのでしょう、その事にわたしは感嘆してしまいました。また、この映画に共感した人たちにとってビートルズの「ノルウェイの森」を耳にするたびに、この映画の映像が脳裏をよぎり特別な曲になるような気がしました。