それでも、日本人は「戦争」を選んだ
高校生を相手に、大学教授が授業をすると言うことは素晴らしいことだと思う。
高校の授業は概して教科書に囚われてしまいがちで、十分に合理的な説明がなされず、
それ故高い関心を持つ生徒にとっては欲求不満の残るものとなってしまうからだ。
だから、加藤先生が栄光学園に出向いて最新の研究に基づき講義を行ったと言うこと自体、価値あることだと思う。
内容としても、前半は迫力のあるものだった。
日本が置かれた政治経済的な状況を眺めた上で、政策担当者や知識人、当時の人々の思考をトレスしていくという手法は
「なぜこうなったのか」を実に明快に説明できているし、地政学的な視点は教科書に全く欠如しているものだと思うので、
その点も新鮮である。
しかし残念ながら、日中戦争期以降については精彩を欠いていたように思う。
他のレビュアーの方も書かれているように、マクロな経済的視野が少なくなってきていることも一因だろうが、
「各政策担当者がなにを考えていたのか」ということは述べられていても、「なぜそのような思考に向かったのか」
たとえば陸海軍と対立であるとか当時の官僚制とか、そういった構造の分析が少ないことも理由に挙げられるだろう。
胡適と日本の政策担当者を比較する時に、彼らのおかれていた状況を比較しなければ現代への意義ある洞察は得られない。
ともあれ、総体としては非常に面白い本だった。自分も高校生の時にこの様な授業が受けられればよかったのに、と切に思う。
戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)
前半は問題提起型で、なにが言いたいのか要領を得た。しかし、後半、著者の守備範囲のせいか、詳細に史実が書き込まれていて、こちらとしてはとても勉強になったが、その分、著者の「語り」の全体像が得られなかった。そのため、星一つ減点。〔追記〕この書の最後に《第十講 日本近現代史における戦争とは何だったのか》という点睛を欠いたこと。それがこの書を画竜のままとしたのではないか。極めて残念。