ドグラ・マグラ [DVD]
よくここまで映像化したと思いますよ。原作は非常に複雑な構成の長編なので、
邪道ですが先に映画を見てから原作に戻るのも良いかもしれません。
精神病院を舞台にした奇怪な映像は「カリガリ博士」を思わせる部分もあり。
正木博士に扮する桂枝雀さんの怪演が光ります。人形芝居(これはうまい演出だなあ)のアテレコの素晴らしい語り口は
さすが一流の落語家ですし、「はあ~チャカポコチャカポコ」と踊り狂うシーンのインパクトは悪夢のようです。
夢野久作のいう「脳髄の地獄」、ダイジェスト版の感は否めませんが、それでもこれは傑作だと思います。
ユメノ銀河 [DVD]
まず、原作を映像化するのは無理という前提で意見を述べます。
ということは監督独自の世界として映像を楽しむということですね。
まあ白黒の映像で、レトロな感じを出す工夫をされていて、風景はいろいろなところをロケしていることと思います。その風景の映像の感じがふんわりしていてどこか場所が特定できなくトンネルをくぐり、踏切を渡ってむかうというちょっと迷宮感のある景色です。それは成功していると思います。さらに説明的言葉をかなり排除してイメージの世界で観客に映像の余白を楽しんでもらうという意図があるように思いました。
また女友達3人の手紙でのつながりが主軸にあり、その中で浅野君扮する運転手との恋がクローズアップされてくるのです。この運転手が悪者なのか?この結果はある程度幸福なものとなるのです。とにかく、浅野君がかっこいいし、小嶺麗奈さん、京野ことみさん、真野きりなさん黒谷友香さんが美しいので画面に彩りはあると思います。この俳優達を観るだけでも良いのではないかな。「夢」の感じは表現されております。眠くなる夢と捕らえる人もいるとは思いますが。決して悪い映画ではないです。
ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
下巻は上巻で語られた「胎児の夢」・心理遺伝の実例が示され、それが古代中国にまで遡るという、時間の概念を超越した話を軸として展開し、謎解きもクライマックスを迎える。読後感はワカッタようなワカラナイような、まさに「戸惑面喰」である。「ドグラ・マグラ」は凡百の探偵小説と違い、一回読んでわかった、終わり、というような代物ではない。謎解き自体が出口のない円環・「堂廻目眩」であるため、様々の解釈をすることが可能であろうし、何度か読んでいるうちに、作者の思想を読み取られる方もいるであろう。この作品はまさに「探偵小説を超えた探偵小説」なのである。
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
コピーで読んだら精神に異常を来すと書いてあるものですから、つい、奇をてらっただけの荒唐無稽な話なのかと思っていましたが、かなり楽しめました。
閉鎖的空間の恐怖、学術研究を追いかけ回し主人公を実験台に成果を競い合う教授達、忘れられた記憶の底にちらつく自分の狂人的な殺人犯としての過去、呪われた絵巻物と精神遺伝による逃れられない宿命。そういった物が巧みに交錯し、技術的にも内容的にも奇抜ですばらしい仕上がりの作品だと思います。一歩先までほとんど何も分からない恐怖と、読んでいくうちに閃く、恐ろしい推測が本の中に容易にのめり込ませてくれます。
ただ、作者の仕掛けた読者を混乱させるような表現と描写には、一部ひやっとさせられる事もあるのですが、本当に意味が分からなくなったりすることがあるので星一つマイナスです。読む上では非常に難解な部分もあると、頭に置いておいた上で読みたいですね。
しかし……このカットは何とかなりませんかね? 作品内に性描写の関わる物はほとんど無いのにこれでは作品的価値が下がってしまうのではないでしょうか? 下手な絵ではないのですが……本とこの絵とは切り離して考えてください。ほとんど無関係です。
きのこ文学名作選
不思議な本だった。主役はきのこ。きのこを題材にした古今の文学作品を集めた本だ。狂言や今昔物語などの古典からいしいしんじまで16編が並ぶ。
うっそうとした薄暗い林間にひっそりと生えるきのこたち。色とりどりに美しいきのこはもしかしたら毒を持っているかも知れず、食べられそうな地味なものでもどことなくあやうさやはかなさを伴っている。この本に登場する作品はそれらきのこの特徴をうまく捉え、ときにはエロティックに、ときには滑稽にきのこを描く。どれも小編でありながら楽しめた。個人的なお勧めは加賀乙彦の「くさびら譚」。
そしてなにより特筆すべきはこの装丁。なんという豪華な本だろう。何ページにも渡って文字のない真っ黒なページが続いているかと思うと、実は少しずつ紙質が変化していて手触りだけがその変化に気づく。ときには本をぐるりとひっくり返さなければ文章が読めなかったり、光にかざしてようやく文字が読み取れる作品もある。ボール紙のような分厚いページが続いたかと思うとわら半紙のようなざらりとした質感のページに変わっている。フォントもレイアウトも統一性がない。けれども楽しい。きのこのように怪しく美しい本の中に入り込むうちに、自分が薄暗い木の下闇のなかできのこにたぶらかされているような気持ちになってくる。