食前絶後!! (富士見ファンタジア文庫)
本書が刊行された1993年当時のラノベ界といえば、「剣と魔法」の異世界ファンタジーが
主流で、そもそもライトノベルという呼称すら存在していませんでした。
その当時、本書のプロトタイプに当る「喪中の戦士」を富士見ファンタジア長編小説
大賞の審査員特別賞にしたというのは、ある種の英断だったのだと思います。
ドタバタでもシュールでもない微妙なコメディセンスと、結構シリアスな物語内容が
無造作に同居している本作の作風は、何でもありになった現在なら近い味の作品も
見出すこともできるかもしれませんが、当時としては、やはり異色でしょう。
しかしそれ故に、本作には、大向こうに受ける
ヒット作品にはない、《奇妙な味》があります。
本作の特色は、何と言ってもその実験的文体。
「調味魔導食」を食べる時の先鋭的な比喩や、「思考の疾走」という
超能力発動状態を描く際の句読点を用いない描写などが挙げられますが、
他にも、章の冒頭において、前章からの時間の間隔とその章での視点人物
を明示していたりして、トンガってるなー、と感心させられます。
タイトル通り、「食前(くうぜん)絶後」な作品だといえましょう。
▽付記
あとがきで、ヒロイン・徳湖のソバージュは千堂あきほが
モデルというのを読んで、しみじみ時代を感じました(w
モーム短篇選〈上〉 (岩波文庫)
外側から観ると不可解だが、
当事者にとっては通常の状態がある。
あなたの周囲にも、こんな人達がいるでしょう。
周りにいるだけならまだしも、
その人々から今まさに、直接迷惑を受けているかもしれない。
(あなた自身が厄介者、だという可能性は置いといて・・・)
* 性格の破綻
* 多面性
人間の二面性や奥行きを、斜に構えた位置から
シニカルに観察する作家、サマセット・モーム
不幸と幸せが行ったり来たりする話は、人生の縮図
九月姫とウグイス (岩波の子どもの本)
サマセット・モームが書いた唯一の童話。
日本では1954年に出版され、その後絶版になったものの、
復刊されてまた手に入れる事ができるようになりました。
「九月姫とウグイス」というタイトルからして素敵だと思います。
光吉夏弥さんのおっとりとした美しい日本語訳は、
ゆっくりと声に出して読みたくなります。
武井武雄さんの挿絵は、クラシカルで美しくとても趣があります。
大人になった今読み返すと、
ストーリーの細かい部分に「えぇっ。それはないでしょー」と
ツッコミを入れたくなる箇所があったりしますが。
装丁も美しくて華やかなので、
女の子へのプレゼントに最適な本だと思います。
読んだ女の子にとって、きっと思い出深い1冊になると思います。