火天の城 (文春文庫)
久しぶりに、歴史小説の醍醐味を堪能させてくれた作品です。
織田信長の安土城を建設した大工棟梁親子の物語で、
建築ディティールの書き込みも去ることながら、
安土城完成まで、山あり谷ありの波瀾万丈。
ずっとハラハラしながら引きこまれてしまいました。
残念なことに、第132回直木賞には、
決戦投票で落ちたようですが、
受賞してもいいだけの値打ちはあると思います。
これだけ楽しめる歴史小説は、司馬遼太郎以来です。
この作者の将来に、大いに期待しています。
利休にたずねよ (PHP文芸文庫)
山本氏の作品自体は素晴らしい出来栄えである。特に最後の張り詰めたクライマックスは、利休の異様な本質を露呈させる設定で、長く尾を引く余韻をかもし出す。しかし、作品の直後におかれた宮部みゆき氏による「解説」は、そんな緊張感と余韻とを一気にぶち壊す無神経さにあふれている。松本清張賞やら直木賞やら、高名な文学賞の選考委員をしている人からは想像もできない軽薄な内容で、秀逸な作品を読み終えた直後に、こんな解説を読んでしまった事が悔やまれた。自分が作者の山本氏であったなら、さぞかし苦々しい不愉快な思いにとらわれたことだろうと思う。優れた作品の解説には、それなりの名文を選んでほしい。
利休にたずねよ
山本一力や和田竜など、これまでの時代小説の世界にはなかった世界観を持つ作家さんが活躍してますが、
斬新な切り口と時代小説の深み、
そのふたつを一番高いレベルで持ち合わせているのは間違いなく山本兼一先生であったと唸るしかない力作です。
実は何年も前に「火天の城」を読んで以来の久々の出会いだったんですが、初期の山本作品は
「この作者さんはすごい量の資料を読んだんだろうなあ」
という感想が浮かびました。
それはそれで凄く面白かったんですが、この「利休にたずねよ」と続けて読むと、
膨大な資料を小説にまとめる力はそのままに、文章の読みやすさやフィクション部分の自然さといった、小説家としての力量があがっているのが明らかにわかります。
自分が生きていなかった時代の、これまた知らない世界のことを、上質な文体にのせて一気に飲み干したあとの充実感はたまりません。
あとはこの話で語られる利休がけっこうクセのある人物なので好きになれるかどうか…。
好きになれない人には読後感もあまり良くないと思います。