合唱名曲コレクション(28) 雪明りの路
廃盤になっていますが、多田武彦の作品を知る上で欠かせない演奏ですので、再販してほしいCDです。中古市場でも結構な値段がついていますので。
『雪明りの路』の演奏は関西学院グリークラブですが、指揮は福永陽一郎氏です。合唱の歌わせ方、テンポ設定など微妙に北村協一氏とは違うのが多田武彦マニアにとっては興味深いところです。関学グリーの名演奏で、圧倒的な量感をもって男声の厚いハーモニーが飛び込んできます。ナローレンジの録音ですが、歴史的な演奏の価値に免じてください。録音データはありませんが、1975年発売のLPの解説が転載してありますので、それ以前なのは確かです。
『富士山』は福永陽一郎指揮、日本アカデミー合唱団(合唱団京都エコーのメンバーが中心)の演奏です。合唱指導は関屋晋氏という豪華な顔ぶれです。1970年発売のLPが音源ですから、演奏は今の感性から聞くと厚く重く聞えるかもしれませんが、これが多田武彦ですし、この心を揺さぶるような量感がたまりません。この重厚な音色は現在の男声合唱団からは生まれないでしょう。
『在りし日の歌』は北村協一指揮、関西学院グリークラブ、『冬の日の記憶』は福永陽一郎指揮、同志社グリークラブで、大学グリークラブの名演奏を聴くことができます。いずれも1982年3月に池田市民文化会館で収録されました。
ライナーノートは多田武彦氏と福永陽一郎氏が各曲について思いが綴られており、資料的価値も高く、読んでいてとても参考になります。なにより伊藤整氏の手紙が収録されていますから。
多田武彦氏やトレーナーの大久保昭男氏はお元気ですが、関屋晋、福永陽一郎、北村協一という名指揮者は鬼籍に入られました。名演奏を残された方々に感謝の気持を込めて。
現代語訳 日本書紀 (河出文庫)
いまさらながら、思いついたことがある。気がついた、というべきか、気のせいか、というべきか……。
この時、スサノヲノ尊は、年すでに長じて、八握もあるほどの長い鬚が生えていた。それなのに天の下なる国を治めることをしないで、なお足ずりをして大声に泣き喚き、頬をふくらませて怒り、かつ怨んだ。そこでイザナギノ尊が尋ねるには、/「お前はどうして、いつもそんなに泣いているのか?」/こう言ったところ、答えて、/「私は母君のおいでになる根国にお供したいと思い、それで泣いているのです。」
〈八握もあるほどの長い鬚〉を生やした、いい年したおっさんが、〈足ずりをして大声に泣き喚き、頬をふくらませて怒り、かつ怨んだ〉。
大袈裟、にもほどがある。いや、大袈裟、というより、ほとんどコントだ。めたくたである。そうして、なぜ、泣いているのかといえば、お母さんのいる、あの世に行きたいのだ、という。スサノヲノ尊は、お母さんが、大好きであるらしい。また彼は一面、「その性質が乱暴で、壊したり傷つけたりすることを好んだ」、という。ところでスサノヲノ尊には、お姉さんもいる。アマテラスオホミカミだ。「この御子は、その身体が光り輝いていて、天地四方にまで光が及んだ」、とある。
乱暴で母に甘える弟に、〈天地四方にまで光〉を放つ姉。――この取り合わせって、……なんだか、太宰「斜陽」の直治とかず子みたいじゃないか? なんて思いついた、というべきか、気がついた、というべきか、気のせいか、というべきか……母の死を追うように命を絶った直治と、あの世の母を慕うスサノヲノ尊との相似なんか、……気のせいか。
大袈裟、を感じさせる表現が、実は、リアルへと肉迫していく仕掛けとして機能している点なども、太宰の文章に通じるものがあるのではないか? なんて、思いついた、というべきか……気のせいか。
話が飛ぶが、私が一番好きなのは、スクナビコナノ命だ。
その時、海上から不意に人の声が聞えてきた。オホアナムチノ神は驚いて探し求めたが、海上に舟もなく、人の姿もなかった。しかししばらくするうちに、眼にもとまらぬほどの小さな男が、ががいもの実を二つに割ってその莢を舟の代りにし、みそさざいの羽を着物の代りとして、波のまにまに浮びながら、岸に寄って来た。
この続きが、また、私は好きなのだが、ここでは省略する。はじめて酒を作ったのは、スクナビコナノ命である、という。あるいは、それは芋焼酎であったかもしれない。
多田武彦「雨・雪明りの路」
このCDは「1枚のCDに2つの演奏を収録した合唱ベストカップリング・シリーズ」の1枚。男性合唱のCD・レコードは、ビクターと東芝が2大レーベルですが、そのレーベルの垣根を越えて、2種類の演奏を1枚のCDに納めたもの。
[このCDの内容]
○ 名曲男声合唱組曲『雨』の終曲「雨」・・・・・1曲だけ
吉村信良指揮「京都産業大学グリークラブ」の演奏と、北村協一指揮「立教大学グリークラブ」による演奏の両方が納められている。
○ 男声合唱組曲『雪明りの路』・・・・・全曲
畑中良輔指揮「慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団」の演奏と、福永陽一郎指揮「関西学院グリークラブ」の演奏の両方が納められている。
「雪明りの路」については、関西学院大学の演奏も、ワグネル・ソサィエティーの演奏もすばらしいものです。(特に、ワグネル・ソサィエティーの演奏は、合唱史上に残る名演奏と思います。)
名演奏を納めたすばらしいCDなのでお勧めです。
なお、ワグネル・ソサィエティーの「雪明りの路」は、「日本合唱曲全集『雨』多田武彦作品集(ASIN: B000B84PQG)(多田武彦の組曲が5つも入っている。すごくお得感がある。)にも入っています。
現代語訳 古事記 (河出文庫)
古事記の現代語訳として、読みやすい著作。一回は通して読んでおくのがいいと思う。
何年か前にはじめて読んだときには系図のところが冗長で、物語の部分は不可思議で、歌謡の部分は曖昧に感じたのだが、色々と他の著作を読み、古事記のことも調べた今では、系図のところはもちろん書かれる際の本筋の目的なのだし、物語の部分は各地方の民間伝承の反響として読めば想像が広がり、歌謡の部分についていえばこの部分こそが書かれた言葉に魂をこめる呪術的な要素として必須なのだということを知ることが出来、そんな視点で読むと何倍も味わい深くなる。
親しみやすい日本神話本。
廃市 デラックス版 [DVD]
大林映画の臭みが今一鼻につく気がする小生だが この作品は素直な佳作だと思い 一番愛している。なにより柳川が綺麗であり 小生もこの映画を見て同地に行ったほどである。大林映画の小細工的なテクニックがなく ごく普通に撮っている点が実に好ましい。特筆は やはり主演の小林聡美。全然美人ではないが 実にはまり役で本当に良い。最近のコメディエンヌの彼女も好きだがかつては このようなしっとりした役もやっていたのだなあと感銘を受ける。