夏至南風(カーチィベイ) (河出文庫―文芸コレクション)
南国の、イメージとしてはベトナムか。熱い南風が、果物や野菜ばかりか肉体までも腐敗させていく。完璧な美をもつビーシアの、なんという結末。人を人とも思わずむごい目に合わせて楽しそうに哂っていたビーシア。「君なんか誰も愛さないよ。そして、君も誰をも愛しはしない。」そう言い放ったクーラン。自分を嫌悪し、美しい人をも嫌悪する。しかし、その人が変わり果てて目の前に現れたとき…。
ごみごみとしたスラム、不衛生極まりない港町、そこでレイプされる少年たち。しかし、それは日常茶飯事。ビーシアは、ほぼ間違いなく情性欠如のサイコパスだと思う。ただ、この作品全体を流れる雰囲気…生きるのが容易ではないのに生きることにどこか真摯ではないという気配のなかで、ビーシアはこれ以外の人格ではありえない、と思う。
今まで読んだ長野作品の中では、かなり好きな話ではある。
フィンランド民謡の花束
アカペラの合唱が美しく歌い上げるフィンランドの大地と自然。素朴で、やさしくて、繊細で、美しい。とりわけ「約束された地」を求めて哀しく歌い上げる「北極星のもとに」。それは周辺諸国のパワーバランスに翻弄され続けてきた人々の切ない願いなのだろうか。そういう哀しい願いでないと信じたくはないにしても、油断しているとうっかり涙をこぼす羽目になる。それほどに心にしみる一枚。
夏至【字幕版】 [VHS]
「シクロ」路線ではなく、「青いパパイヤの香り」と同じ世界です。
しっとりとした映画。3人姉妹のそれぞれの生活、夫や恋人との関係などなどが淡々と描かれます。説明は少し少ないくらいなのに、テンポよくストーリーが進んでいくので、どんどん引き込まれてしまいます。
いつも雨が降っていたような、、、そんな記憶が残る映画です。
夏至 特別版 [DVD]
実はうつ病を患っている者です。
だいぶ症状は改善されてきていて、DVDも観られるようになりました。
そして今、抽象的な表現ですが、精神的にとても身体全体が「水」を求めている感覚がして、この映画はほとんど予備知識なしで観ました。
この映画は、あるインテリア雑誌に紹介されていたのがきっかけで購入しました。
夜に一人でみたのですが、まさに今・・・自分が求めていた水のもつ柔らかさ、激しさ、そして激しくないカット割、登場人物たちの生き様・・・まさにこういう映画で癒されました。
最近は、いわゆる「ヒューマンドラマ」映画でも、アメリカ映画ではドラマティックな展開が挿入されていて、それすら受け付けられないほど、疲れている自分にようやく気がつきました。
(だからといって「ディープ・ブルー」のようなドキュメントは苦手)
ベトナムは、「水曜どうでしょう」のラストの企画で、大泉洋と鈴井貴之がカブでベトナム縦断したのを観ていたので、大まかなイメージはありましたが、この映画はそういうリアルな部分ではなく、ベトナムの持つ美的・・・耽美なエッセンスを凝縮した映画でした。
何度も繰り返しますが、この映画に出会えてよかったです。
こういう映画、いくつも観てみたい。
ちなみに、この監督さん、村上春樹氏の「ノルウェイの森」の監督なんですよね。
個人的には「ノルウェイの森」の映画は失敗するだろう、と思っていたのですが、この映画をみて、この監督なら、期待できるかも、と俄然見たくなってきました。
村上春樹氏も トラン・アン・ユン監督が好きだ、ということで企画が実現したそうですが、原作の持つ繊細さ、喪失感をどう表現するのか、とても楽しみです。