ヴィスコンティ秀作集 1 ベニスに死す
~ヴィスコンティ秀作集の1巻で、まるごとベニスは死すのスチールやシナリオ、ヴィスコンティとの対話、「ベニスに死す」をめぐる対話、評論などが一冊になっています。1981年当時の発刊により、今の評論よりも細かい評論になっており、決して読みやすくはないがファンにはたまらない作りになっている。最近、こんな骨太な本は滅多にないです。ヴィスコンティ好~~きは絶対に買いです。~
トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)
トニオは決して俗人の輪に入ることなど出来ないが、それでも自分はその人間的なもの、生命あるもの、平凡なものへの俗人的愛情を根底に持っていることを最後に悟る。
そのトニオのような「迷える俗人」的芸術家気質は、リザヴェータさんのような「人間」を軽蔑する誇り高く冷たい真の意味での芸術家とは、微妙で重要に気質が異なる。
僭越ながらも、何か凄く分かるような気がしました。文学に真面目にのめり込むほど、無意識の内にスノビッシュになっていく傾向が誰にでもあるかと思いますが、それでも私はトニオのように、根底にはやはり人間に対する愛というものを常に持っていたいと思いました。様々な表現に核心を突かれ、良い意味で自らの卑猥な自尊心を暴かれたような感覚でした。特に、あーだこーだ長く愚痴るトニオを、リザヴェータさんが、「あなたは俗人です」と一蹴した有名な場面には吃驚しました。
勘違いかどうかは兎も角、「何か自分はどうしても周りと違和感を感じるなあ」とか、「もしかしたら自分は芸術家気質なのかもなあ」とか思っている人には、颯爽必須の一冊です。世に出ようとする芸術家志望には、その根本姿勢を暗示してくれます。『魔の山』は長くて手が出せないという人にも、本作は短いので手軽に手を出せ、驚愕出来ます。ちなみに、大西巨人さんも『トニオ・クレーゲル』が大好きだそうです。
ベニスに死す [DVD]
全編美しい映画で絵画のような印象を与える傑作です。
中でも主人公を死に誘うようなタジオ=ヴョルン・アンドレセンの美しさと
冷たい仕草が良く話題になりますが、
個人的にはやはり美少年に惑い、最後悲劇的(喜劇的でもある)に死んでいく
音楽家アッシェンバッハ=ダーク・ボガード氏の演技が素晴らしいです。
タジオを見てからの初恋の少年のような戸惑い、思い切って諦める為に
ベニスから去ろうとしたものの手違いでベニスに残ることになった時の歓喜(!)
自分の死を自覚した時の絶望…。
ほとんど台詞は無く仕草と顔の表情で表現しているのがすごいです。
この映画そのものはアッシェンバッハの一生涯を追いかけている構成でありまして
所々に挿入される回想シーンでの子供と戯れる父親の彼の姿は
その後の人生の残酷さを感じましていつ見ても泣けます。
この映画に出演した後にボガード氏は
「これ以上の演技の出来る映画はないだろう」と語ったそうですが
確かにアッシェンバッハを演じられるのに一生涯分の感情を使われたと思います。
余談ですが、指摘されるまでボガード氏が「地獄に墜ちた勇者ども」の
フリードリヒも演じられていたとは気がつきませんでした。
(全然印象が違います)
上映されてから三十数年、
ボガード氏始め出演者の大半は鬼籍に入りベニスも変わりました。
しかしこの映画の美しさはいつまでも変わらないでしょう。
今年もこの作品が無事再販されたことが、嬉しかったです。
ベニスに死す〈ニューマスター版〉 [VHS]
長い映画でしたけど、主人公が感情移入しやすかったので見やすくてよかったです。
少年はとっても美しくて素敵でした。
けれど、どことなく漂う「妖しさ」みたいなものが無かったので、
ちょっと残念です。
あの年頃の少年らしくてよかった思いますけど、
もっとこう、「人をひきつけるような妖美さ」があったら、
もっとよかったと思うんですけど。
最初のあたりが少しダラダラしてるかなと思いましたけど、
バックに流れる音楽が素敵だったので、あんまり気にならないはずです。
最後は切ない終わり方でした・・・・
ヴェニスに死す (岩波文庫)
「およそだれでも、はじめて、または久しくのらなかったあとで、ヴェニスのゴンドラにのらねばならなかったとき、あるかるいおののき、あるひそかなおじけと不安を、おさえずにいられた人があるだろうか。譚詩的な時代から全くそのままに伝わっていて、ほかのあらゆるものの中で棺だけが似ているほど、一種異様に黒い、このふしぎなのりものーこれは波のささやく夜の、音もない、犯罪的な冒険を思いおこさせる。それ以上に死そのものを、棺台と陰惨な葬式と、最後の無言の車行とを思いおこさせる。そしてこういう小舟の座席ー棺のように黒くニスをにってある、うす黒いクッションのついたあのひじかけいすは、この世で最もやわらかな、最もごうしゃな、最も人をだらけさせる座席であることに、人は気づいたことがあるだろうか。」
マンの「イタリア紀行」です。アッシェンバッハという老作家。タッジオという美少年。作家がこの少年を真夏の炎天下、正にストーカーとなって追いかける物語。ああ、恋とは、そして情熱とはこのように滑稽で悲惨なものである。黒いゴンドラの座席に身を沈めた作家は、棺の中に横たわった死人のように、現実の生活から離れて一息つき、心も体も十二分に安らいでいる。
ヴェニスの風景が美しい。ヴィスコンテイの映画も美しいけれど、多分このオリジナルの言葉の芸術に勝るものはありません。