山猫の夏 【新装版】 (講談社文庫)
80年代前半のブラジル、反目しあい100年にわたる抗争を続ける二つの旧家が支配する東北部の小さな町が舞台。
この旧家から出奔した娘の捜索のため、裏社会で名を馳せた謎の日本人“山猫”こと弓削一徳が呼ばれる。だが彼は単なる請負仕事で終わるつもりはなかった・・・。
内部に対立をはらみながら、急遽編成された探索隊を率いて“山猫”は出発する。イバラの原野とサボテンが密生する砂漠、灼熱の気候、野盗強盗団、元秘密警察出身の”山猫“のライバルの登場。
逃げた娘を連れ、町にもどった“山猫”は反目しあう2つの旧家と漁夫の利を狙う警察・軍隊を煽る。やがて争いが連鎖的に発生する。全てを見通した“山猫”の哄笑、封鎖された町の中で起こる凄惨な闘い・・・。
前半の過酷な自然の中での追跡行から、後半は小さな町を舞台とした闘争へとストーリーはぐいぐいドライブされていく。予想がつかない展開、主要人物も容赦なくばたばたと殺されていく。灼熱の南米を舞台にした船戸与一得意の冒険小説。執筆が80年代と船戸作品の中でも初期作品にあたるが、扱われているモチーフは以降の作品群と相通じるところがある。本作はなによりも冒頭から強烈な個性をもってストーリーを引っ張っていく“山猫”のキャラクターがたっている。船戸冒険小説の文句なしの傑作。
ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)
仕事でミャンマーに関っているもので、本屋で見た瞬間「ジャケ買い」。この手の本は大体「すごくその国が好き!!(そしてそれを書いてる自分が好き)」な擁護本か批判本かしかないので、特に期待はせず読んだところ・・・面白すぎる。
政治的に決して安定していない他のアジアの国々と比べても、「何かちょっとヘン?」とずっと思っていたミャンマー。その謎がするすると「柳生」で腑に落ちてしまい…
日本だって黒船来る前から高度な経済と教養のある人がたくさんいたことを考えると、江戸時代に近い社会が現世に存在したっておかしかないわけで(むしろ江戸時代の方が優れていた点だってある)と妙に納得。
この着想の妙を上回るのが、著者の文体の魅力。他の著作も勢いで読破しましたが、やってることはめちゃくちゃながら、書いている国、人との距離が絶妙で、自分を客観視できる頭のよさ、人としての品の良さを感じます。