Silent Movies
マーク・リボーは米ギタリスト。ロックからフリージャズまで様々な領域での活動を行っている人で、日本人のアーティスト
とも複数コラボレーションしており、意外な作品のクレジットに彼の名前を見付けることが出来る。(最近では矢野顕子の2
008年作品「akiko」に参加)
本作は彼が映画音楽用に書き溜め未発表になっていたもの、サイレント映画時代に着想を得て新たに作曲した作品等13
曲のギター・ソロ作品が並ぶ。ジャケットの画像は映画好きな方ならピンと来るだろう、チャップリンのサイレント時代の名
作「キッド」から恐らくヒントを得たイラストである。
音楽の特徴としては、実験音楽を活動領域に含む彼らしく単なるソロ・ギターの音だけでなく随所に掛けられたダブ・サウ
ンドが聴き手の想像力を膨らませてくれる。しかし本作の軸はあくまで彼のギター演奏だ。しかしギター一本でよくもここま
で豊かな音像が創れるのかと驚かされた。静かな作風ながら常にピンと張りつめた緊張感に貫かれる。
幕開けの「Variation 1」、極めて最小限の音でぽつぽつとギターが紡がれるが、各音の残響の美しさや次の音との響きの
衝突が美しい為、思わず耳がひとつ残らず音を拾っていこうという意識にさせられる。この曲に限らず最小限の音数で構
成された彼の音楽は無駄なエッセンスがとことんそぎ落とされた印象を受ける。他にも不穏なアルペジオ・コードを力強く紡
ぎ続ける「Solaris」、何処かの街の騒音や美しい水の音をうっすら背景で流しながら悲しげな旋律を奏でる「Requiem for
a Revolution」等、映像的なものを喚起させる様は極上の一本の無声映画を鑑賞している気分にさせられる。全体にノス
タルジーからくるもの寂しい雰囲気が漂っている処も素敵だ。
作品の白眉は終盤の二曲。「Kid」は、先述したチャップリンの映画に捧げられたものだが、映画でのチャップリンと子供との
心の交流をそのまま音にした様な温かみを感じる素晴らしさ。終曲の「Sous le Ciel de Paris」は、仏映画界の巨人ジュリア
ン・デュヴィヴィエの1951年の作品「巴里の空の下セーヌは流れる [DVD]」の挿入歌で、エディット・ピアフが大ヒットさせた
シャンソン。この美しさはどうだ!静かに鳥の声が響くなか、3拍子の物悲しく美しいギターの旋律だけが流れるこの贅沢さ。
実験音楽としてよりも、映画音楽としての判り易さや美しさを追求した作品なので、多くの方に愛聴していただけると思う。
サイレント時代独特の哀愁感やモノクロ感の空気がお好きな方は、一度聴いてみると良いだろう。
Marc Ribot Y Los Cubanos Postizos
タイトル通り、キューバ音楽のカヴァー。
マークリボーはルートレスコスポリタンズにおけるアートリンゼイ的な作風よりもこういう泥臭さが強い作品が一番向いてると思う。もちろん歌伴ものにおけるバックでのソロなども素晴らしいんだけど。
このアルバムで唯一のオリジナル曲であるM.4のPostizoが好き。