野生のしらべ
以前からCDは持っていましたが、どんな人生を送ってきた人かは知りませんでした。
先日、TVでグリモーがニューヨークでおおかみの保護センターを運営している事が放映されていたため、WEBで調べたら本を書いていることがわかり、買ってみました。
子供時代のひきこもりやそれを音楽で克服したこと、その後の音楽での挫折とおおかみに出会ってからの恢復、その生き方は壮絶でありながら、共感できる人生でした。
ピアニストの自伝的エッセイとしてだけではなく、自分を取り戻す過程はドラマチックですばらしいものでした。
今回の来日は、コンサートにいけませんでしたが、次回の来日公演は是非行ってみようと思います。
(サントリーホールに行った友人は本とCDのサイン会でサインをしてもらえたそうで、とてもやさしく、気さくで素敵な人だと言ってました)
ブラームス:後期ピアノ小品集
グリモーは、美人ながら自閉気味なところがあり、現在はアメリカで、狼の多頭飼育をしながら暮らしている、というピアニストである。しかし演奏は、そうしたキャリアから予想される、なにかエキセントリックさのようなものは、まったく感じられず、正統派の繊細でエレガントなブラームスである。六つの小品op118なども、さらりと弾きこなされていて、ともすれば重くなりがちなブラームスオンリーのアルバムが、BGMにもできるほど、流れるような印象に仕上がっている。選曲から受ける印象以上に、しょっちゅう聴ける、手に入れて損がないCDだと思う。
レゾナンス
今日、神奈川県立音楽堂で開かれた、エレーヌ・グリモーさんのピアノ・リサイタルを聴きに行きました。
リサイタルのプログラムは、このCDの内容に沿ったもので、グリモーさんの実演を間近に聴く機会を得られたことは、とても幸運なことでした。
グリモーさんの弾き方は、腕や身体を弓なりに大きく反らせるような、いわゆる”魅せる弾き方”ではなく、眼で細かく鍵盤を追っていくスタンダードな弾き方でした。
ですが、時には両腕を大きく震わせながら、エネルギッシュに鍵盤を小刻みに叩くように弾くスタイルに、狼の保護活動に熱心に取り組んでいるグリモーさんの、ある種の野性味のエネルギーを感じました。
ピアノの音色は、弦楽器や木管楽器のように音をふくらませることはできず、減衰する「宿命」にあるのですが、グリモーさんはピアノの響板全体を鳴らすことによって、音をふくらませていくような印象がしました。
そして、この響きこそが、「野生のしらべ(Wild Harmonies)」と評される所以かもしれないと思いました。
演奏の終了後、ホールを埋め尽くした聴衆から拍手喝采を浴びて、胸に手をあてて、深くお辞儀をされていたグリモーさん。
サイン会でも笑顔で一人一人にサインし、「ありがとうございます」と日本語で挨拶して固く握手に応じていた、現代を生きる奇跡のような偉大なピアニストとの5年ぶりの魂の共鳴に、エネルギーを頂いた方は多勢いたと思います。
「野生のしらべ」を実感できるCDとして、末永く愛聴したいと思います。